(危ない危ないマニラの街かど。子どももスリやかっぱらいになる)
マニラおのぼりさんであることを忘れ、余裕しゃくしゃくでかまえていた、私たち。
大きな荷物を抱えて、乗り合いバスに乗った。メータータクシーにのったら、値段交渉がめんどう、とか思ったかもしれない。
もしかしたら、乗り合いバスに乗った時点で、その後の運命は決まっていたのかも。
乗り合いバスで、エドゥサ通りまで下った。
そのあたりには、センセイが、以前ひとりでマニラに来たとき、泊まったという、とっても「安全な」ホテルがあった。
そこへ泊まろうという話になったのだ。
そのホテルの名前は「マハル・キタ」
フィリピンの言葉で”I love you ”
それだけでも、人生の荒波をくぐってきたアラサー、アラフォーの人には、どんなホテルか分かるはず。
あらら、ほわほわと、ほんわか路線で行くと決めていたのに、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
いけない、いけない。
気をひきしめる、もとい、気をゆるめないと。
ほわ~
ほわ~
よし。
センセイと、交差点でバスを降りた。
何だか、とってもざわついてる交差点。
大きな歩道橋があって、モノレールの駅もある。
人がたっくさんいて、あんまりお金の無さそうな人がいっぱい。
うす汚れたシャツの、はだしの男の子が、駅の階段にすわって、「お金ちょうだい」とやっている。
何だかホラーハウスみたいな、おそろしい感じのゲストハウス。その前には、若い女の子たちが、たくさんいて、なぜか、ニコニコ、ぼくに笑いかけてくる。
なんか、顔についてるのかな。はじめはそう思っていた。
何の心配も不安もなかった。ただ暑い。
「ちょっと、そこのミスタードーナツで、コーヒー飲んでいこう」とセンセイ。
そこは秋葉原の古い電気ビルみたいな建物の前だった。なんというか、奇妙なつくりのミスタードーナツ。
入り口が、あっちとこっちに2つある。
お堂みたいなつくりというか、円形の店になってる。
通り側の入り口から入って、向こうの電気街の方へすうっと抜けられるようになっていた。
センセイはコーヒーを頼んだ。
ぼくは、暑かったし、何も頼まなかった。
急にトイレに行きたくなった。
店の人にきくと、そのミスドにはトイレはなかった。
となりのファーストフードの店に行かなきゃならない。
「ちょっと、となりの店のトイレに行ってくるね」
といって、暑いので、肩掛けバッグを、椅子の上に置いた。
「うん」とセンセイ。
センセイは、コーヒーを飲みながら、テーブルについていた。だからぼくは、無意識に、バッグを置いていっても大丈夫だと思ったらしい。
それが運の尽き。
隣の店のトイレに行くと、長蛇の列。
長く長く待った。
やっと用を済ませて、人ごみをかきわけて、ミスタードーナツにもどった。
「・・・ん?」
何かが、店を出たときと違う。
いっしゅん、間違い探しみたいな気分になった。
何かが足りない。
そう、いすに置いた肩掛けカバンが無い。
すーっと血の気が引いていった。
中には、カメラや、パソコンなど、大事なものをたくさん入れていた。
なるべく平静をよそおって、センセイに、
「ここに置いてあった、バッグ知らない?」
ときいた。
「あれ・・・」
無い。念のためファーストフードの店まで見てまわったけど、ない。
セキュリティーの、マシンガンを持った男の人にもきいてみた。全く見てない、という。
センセイと、どんな状況だったか、話し合った。
センセイは、ぼくがトイレに立ったあと、タバコが吸いたくなった。そのとき、店内は禁煙だったので、ほんの1分ほど、タバコを吸うために、外に出た。
そのとき、ちょうどテーブルのかげになって、ぼくのカバンが目に入ってなかった。
その一瞬の間しかない、盗まれるとすれば。
ほぼ、置き引きにあったことが、確実になった。
こういうとき、怒ったり、どなったりすると、余計に疲れて、判断力がにぶる。
だから、冷静に、冷静に、ベストの方法を探した。カメラには、その日までの活動をうつしたメモリーカードが入っていた。パソコンにも、重要な書類を入れていた。
そのことが頭をよぎったけれど、つとめて考えないようにした。
セキュリティーの男が、通りの向こうに警察署があるので、そこに行け、という。
確かに、それくらいしか、今のところ、できることはない。
重い荷物を抱えて、セキュリティーに教わったとおり、乗り合いバスに乗った。
ただ一つ、運がよかったのは、パスポートや、財布やカード、お金の類いを、前の日に、何を思ったのか、たまたま別のカバンに入れかえていた。
それで、ほんとうの最悪の事態は、ぎりで免れた。
前の日に、ホテルで何の気なしに、財布類をバッグに入れ替えたけど、今思うと、ホントにフシギ。
何かを予感してたのかな。
(つづくでしょ)












