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......あったかい。
『さと....』
遠くの方から声が聞こえる。
とろとろとした微睡みの中で幸福感だけが俺を包んでた。
聞こえる声は俺のよく知ってるもので、その声の優しさに頬がゆるむ。
んーっと伸びをして目を開けた。
目の前には白い布。
手で確かめたそれは、ふわふわの蒲団。
窓辺のカーテンの隙間から薄く光が射し込んで、柔らかい蒲団に模様をつくる。
朝も夜も明るい都会だから。
夢の中で聞こえていた優しい声は誰だったのか。
知っているはずなのにその顔が思い出せなくて、なんだかもどかしくて。
無意識に蒲団を抱きしめた。
『あはは』
隣から突然聞こえた笑い声。
いつも聞いてるその笑い声。
びっくりして飛び起きた。
「え.....」
人ってマジで驚くと声が出ないって言うけど、あれ本当なんだな。
俺の目線の先にはよく知った顔。
俺のそんな反応にまた笑うその横顔。
白く柔らかい肌。
目尻には優しい笑い皺。
いつも俺に安心感をくれるその声が、こんなにも俺を困惑させるのは初めてかもしれない。
そして気づいた。
そいつの蒲団から出た裸の肩。
嘘だろ...。
いや、嘘ってなんだよ。
俺、こいつになんかしちゃったのか?
混乱しまくる頭で咄嗟に蒲団をめくって見た自分もやっぱり裸で。
「マジで.....」
「あはははは」
戸惑う俺を見て、さらに笑うその顔はいつも通り優しくて。
どうしたらいいのか全然わかんねぇ。
こいつのこの穏やかな空気はなんだろう。
いつもと変わらないその空気が、俺をまた困惑させる。
何を言ったらいいのか。
どうしたらいいのかわかんないまま、咄嗟に出たのは「ごめん」ってひと言。
あいつの顔を見ることも出来ないまま、ベッドから飛び降りるようにして、トイレに逃げ込んだ。
「マジでどうなってんだよ」
呟いた声は小さくて、あまりにも情けない声だった。
なんの考えもまとまらない頭で、トイレのドアにもたれかかったまま、出るのはため息とマジかって小さな声だけ。
いい加減トイレに籠るのも限界だよなって思った時、聞こえた音にまたビクッと背中が伸びた。
Writing by なかにお Special Thanks!