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「……トリプル…オートロックシステムぅ… ?」
「……トリプル……オートロック…システム…?」
「はい。まずエントランスホールに入るために1つ目のオートロックを解除。そしてエレベーターホールへ入るために2つ目のロックを解除。さらに万全を期して、 エレベーターに乗るためにもロックの解除が必要になっております。なお外来者に関しましてはフロントで貸し出されたカードキーがなければエレベーターを利用できず、指定階以外のフロアのボタンを押すことができないシステムになっております。また………(中略)………というこの物件を、大野様に自信をもっておすすめいたします。」
「………………。」
「………………。」
これで本日3棟めのタワーマンション。
正直もうどこでも同じに見えてくる。
俺的には「防音で壁1面ミラー張りの広めの1室」とそこそこのセキュリティーが備わっていれば、他にこれといったこだわりはない。
でも…なんか…なんか決め手に欠けて、結局相葉ちゃんにもう半日以上不動産屋めぐりに付き合ってもらってる。
高速で点灯箇所が変わってゆくエレベーターの階床ボタンをぼんやり眺めながら思わずポツリ。
「俺、自分がどんな処に住みたいのかわかんなくなってきた。どこでもいいとか思ってたのになんでか決めらんねぇわ。」
「説明聞けば聞くほど混乱しちゃうね。」
不動産屋のイケメン社員に案内され、芸能人も多数居住しているというマンションの高層階の空き室を一通り内覧してみる。
「うわっすごいね!みてみてこれ!全自動!」
「え!!こんななってんの今って!すげぇ!」
「あれ富士山じゃね?オレんちどっちだろ?」
「おおちゃんの実家あのへんじゃね? 『 お母さーーーん、お宅の息子さん今、引っ越しを検討していますよーーーっ!』」
さっきも同じ様なマンション見に行ったばっかなのに、いちいち新鮮な反応を見せる相葉ちゃんに笑いが込み上げる。
「キッチンもすげえじゃん。おおちゃん魚釣ってきてさ、オレ寿司握るから『相葉亭ごっこ』しようよ。そのカウンターのとこでぇ、翔ちゃんとニノと松潤とさ、みんな座って……って違うな 『大野亭ごっこ』か!」
「俺んちはやすやすと開放しないぜ。」
「まあ…うんそうだよね。わかる。仕事とプライベートの切り替えに『家』って大事な場所だもんね。でもさ、邪魔しないからさ、たまにはおおちゃんち遊びに来てもいい?」
ってなんでそんなに目えキラっキラで聞いてくんだよ。「いつでもおいで」ってついつい言いそうになっちまう。相葉ちゃんなら肩ひじはらずに自然に居れる気がするんだなあ。なんでか。
「いかがでしょうか。当物件、お気に召していただけましたでしょうか。」
すっかり存在を忘れていたイケメン不動産屋がお伺いをたててくる。
「とりあえず今日のところは話だけってことで…。」
「かしこまりました。それではカタログだけでもお持ち帰りくださいませ。ご連絡をいただきましたら当社の方から大野様までお伺いさせていただくこともできますので、ゆっくりとご検討ください。ご連絡お待ち申し上げております。」
パーキングに停めていた相葉ちゃんの車にどっかと乗り込む。
「んが~っつ!疲れた~。パニックだわ頭。こんなに時間食っちまったくせに決めらんなくて、ほんとに申し訳ない。早く引っ越して気分変えたいんだけどなぁ……」
「いやいやオレは全く平気だよ。何かと面白いし勉強になるし。ねぇおおちゃん、お茶しよっか。」
シートベルトの金具をカチッと差し込みながらお疲れ気味の俺を気遣ってくれる相葉ちゃん。
「腹タプンタプンだし……ちょっと前に飲んだばっかじゃん(笑)。」
「じゃあさ、ラーメン食う?」
「だから腹タプンタプンだっつーの(笑)。」
「んじゃとりあえずオレんちで休憩しよっか。」
エンジンのスタートボタンを押すと、流れてきたのは俺の知らないおしゃれな洋楽。カーナビのディスプレイに指を伸ばしかけて引っ込めたかと思うと、おもむろに俺の方を向いて、すごい提案をぶっ込んできた。
「ってかさ、ひとまずオレんちに体だけ引っ越してみない? 早く気分変えたいんでしょ?新しい家が決まるまでオレんち来なよ。2人ぐらしイェイっ!」
ポカンとしてる間に強制ハイタッチをさせられる。
「俺と…相葉ちゃん?」
「うん。オレさぁおおちゃんと一緒にいるこの感じ、なにげに好きなんだよ。柔らかいクッションぎゅーって抱っこしてるみたいな気持ちになるんだ。わかる(笑)? 」
「でもさっき『家はオンとオフの切り替えに大事な場所』だって言ってたじゃん。」
「オレ、おおちゃんなら平気。むしろウェルカム。おおちゃんさえ嫌じゃなかったらさ、真剣に考えてみてよ。」
…どうしよう…ぐらぐらに揺らぐんだけど俺…
正直相葉ちゃんとのこの感じ、居心地いいって思ってる自分がいるんだよな…。
Writing by もりもり Special Thanks!