シンジュキノカワガ 採集から飼育 兵庫県姫路市 2023年9月2日、3日、以降の観察 | 昆虫漂流記

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シンジュキノカワガ

採集から飼育

 兵庫県姫路市安富町

2023年9月2日,3日、以降の観察

シンジュキノカワガは蛾としては独特の色彩を有する美麗種です。
蛾としては大型種の仲間で収集家の間でも人気を有しています。
保育社の原色日本蛾類図鑑(下)では表紙を飾る種類でもありました。

本種は中国原産で、これまで自然現象(低気圧や北からの風)の影響で日本に飛来したとされ、日本各地で散発的な発生形態を記録してきた遇産種とされてきました。
近年は食樹のシンジュ(ニワウルシ)の移入に伴って各地で、見つけられるようにはなってきましたが、定着していると考えるには可能性は低いと考えられています。

これまで兵庫県内では西宮市甲子園、伊丹市昆陽池町、神戸市須磨区、高砂市、たつの市新宮町光都、朝来市和田山町久世田、養父市関宮町鉢伏高原、佐用郡佐用町船越、宍粟市波賀町音水、兵庫県市川町屋形、丹波市柏原町、南あわじ市南淡町、南あわじ市阿万上町で記録があるようです。
隣接する大阪府では羽曳野市、茨木市並木町、大阪府四條畷市南野、大阪府大東市野崎などの記録があります。

尚、大阪昆虫同好会「大昆Crude No.62」には姫路市でのシンジュキノカワガの過去の記録が1件書かれているようですが、私が「大昆」の会員ではありませんので、会誌の題名のみから取り上げて記載内容は未確認です。
どちらにせよ姫路市内でのシンジュキノカワガの記録は少ないようです。

今回採集に至ったのは、兵庫県姫路市安富町皆河と云う地名ですが、周辺の環境は植林された針葉樹に囲まれた谷地形の山あいの環境になります。(冬には雪が積もる地域で、偶発的な発生と考えられるので所在地を明記しています)
この区域では約50メートル程の距離の間にシンジュの樹が数十本と生えています。

後日詳しく調べる為に9月7日に再訪問すると、その区域を外れると、約1キロ区間の道路脇から見れる範囲にはシンジュの樹を見かける事が出来ませんでした。


成虫はその隣のシンジュの樹の周囲を飛翔(ホバリング)していましたが、撮影には飛翔が止まる気配がなかった為に、さっさと捕獲に至りました。

飛んでる外見は、前翅は黒っぽくて、後翅が真黄色のキシタバのような昆虫が、トリバネアゲハの小型版の蝶がホバリングしているような様子で、どんな昆虫が飛んでいるのかは、判別できませんでした。

捕虫網で捕獲して、網の中の姿でシンジュキノカワガと判別が出来た次第です。

 

幼虫が確認できたのは幹の直径が7cm前後で高さが3m程の樹上部付近の葉の裏側です。

此の場所では携帯の電波が届かず、ネット検索もままならず、幼虫の種類を確定する事が出来ませんでしたが、シンジュの葉を餌にしている事と、成虫が採集出来た事から、本種と考えて捕獲に至りました。
9月2日は、成虫1頭、9月3日に3令幼虫3匹を捕獲しています。

NPO法人こどもとむしの会(佐用町昆虫館)の「みんなも、昆虫調査員!このむし、みつけたら、おしえてね【MM:むしみっけ 2023年版】」の情報提供フォームにも報告対象昆虫に含まれていましたので、3日時点での(種類、GPS位置情報、採集住所、個体数)を報告しております。

 


2023年9月2日採集

下の3個体の写真は3齢幼虫(9月3日撮影、採集)

 

追記。

2023年9月7日に再訪問して、近隣のシンジュの樹を可能な限りの本数を調べてみました。

樹の高さが7メートルを超える樹については調べる事が出来ませんでしたが、捕虫網の柄で手繰り寄せてシンジュの樹を調べていきました。調べた本数は、道沿いに生えていて、枝が手元に手繰り寄せれる、約15本前後です。

シンジュの樹が生えている環境は、午前9時頃から太陽の光が届く日向の区域と、大きな樹の影で夕方まで日陰の状態のシンジュの樹がありました。

日向になる樹にはシンジュキノカワガの幼虫が確認できましたが、日陰の樹には幼虫が確認できませんでした。

また9月3日には3匹の3齢幼虫しか確認できませんでしたが、7日に念入りに樹を調べていくと、日向に生える樹の葉の裏側に、初令の幼虫から5齢幼虫までが確認できました。

初齢にはまだ黄色と黒の縞模様はありませんが、2齢幼虫以降は黄色と黒の縞模様があります。

初齢が約30匹ほど、2齢から4齢までが約10匹ほど、5齢が21匹が確認できましたが、樹が高すぎて確認できなかった樹もある事から、それ以上の個体数が存在すると思われます。

今回は餌のシンジュの樹の葉を、ほぼ食べつくした5齢の集団が生息していた19匹を持ち帰る事にし、樹の頂上付近の数枚の葉に分かれて百匹ほどの集団を作っていたイラガの幼虫を、残りの小さなシンジュキノカワガの幼虫の餌に利用できるように、イラガの幼虫を別の樹木に移動させました。後日イラガの幼虫が大きくなった頃に模様からイラガの種類はヒメクロイラガと判明。

 

現時期では野外では?繭(蛹)を見つける事が出来ませんでしたが、幼虫は初令から5齢までを確認済みです。

 

2齢幼虫の姿(9月7日撮影)

 

2齢幼虫と5齢初期幼虫の大きさの比較(9月7日撮影)

自然状態での鈴なりの5齢初期幼虫(9月7日撮影)

飼育状況

5齢初期幼虫を9月7日に持ち帰り、水槽の底にクッキングペーパーを湿らせて敷き、その上に枝を切りとったシンジュの枝を立てかけて入れて置きました。水槽の蓋には、最初にクッキングペーパーを、その上から半分ほどナイロン袋で乾燥を防ぐために置き水槽の蓋で挟み込んんで、蓋として様子を見た。

 

9月9日の状況です。

早朝に餌替えを行うと既に蛹室を作っている個体が見られました。

 

左の個体は5齢後期(終齢)幼虫、右の個体は5齢初期の幼虫

5齢後期になると黄色い色合いが濃い色になります。(9月9日撮影)

5齢後期に色変わりした幼虫は、蛹室を作るために、周囲の物を削ります。

2匹の幼虫が蛹室を作るためにシンジュの茎を削っています。(9月9日撮影)

シンジュの葉の上に蛹室を作ろうとしている個体です。

幼虫の周りに部屋を作りかけています(9月9日撮影)

出来上がった蛹室の様子。

内部は、まだ幼虫の姿なので、前蛹状態になります。(9月9日撮影)

野外で幼虫を採集してきた際には、5齢後期(終齢幼虫)に黄色い色合いが濃いくなってから、蛹室を作り始めるのは数日後(3日程)の行程なので、5齢の幼虫を持ち帰った際には直ぐに蛹室を作ると考えておかなければいけないようです。

 

9月11日の状況です。

9月9日に木の皮を削り、糸で紡いだ蛹室を作り始めていたグループの中には、木を削らずにクッキングペーパーの上で蛹室を作らずに転がった状態で前蛹になった個体から、蛹に変態する個体が見られるようになりました。

 

9月11日 23時頃の様子です。

黄色が綺麗な蛹が出てきました。

 

9月11日 23時30分の様子です。

上の個体のように、30分程で黄色から褐色に色付いてきました。

(ちなみに下の個体は、未だ前蛹の個体です。翌日に蛹化しました。)

 

9月12日 06時頃の様子です。

翌日には、かなり色が濃いくなり完全な蛹に変態です。

 

尚、幹や葉の上で蛹室を作った個体は下の写真のように、蛹室を作った植物共に割りばしに固定したうえで、ドライフラワーや生花を飾る際の「フラワー吸水スポンジ(オアシスとも消費名でも販売されている)」で、立てた状態で管理しています。

此方は既に9月9日には蛹室を完成させていたグループですので、一番に蛹になった個体ですが、触ると音が鳴ります。

鳴くと云うよりも、蛹室の中の蛹も、本日に蛹になったクッキングペーパーペーパー上の個体も、刺激を与えると体を震わせてフリフリダンスをするように動く事から、蛹室を作った個体は蛹室の壁に擦れて音が鳴っている事が判ります。

 

9月9日に蛹室(前蛹状態)を作りあげた個体が、9月22日に成虫に羽化しました。

繭(まゆ)を作ってから、羽化までは13日間でした。

上の写真の左の繭(まゆ)です。繭(まゆ)の中に蛹(さなぎ)の状態で存在しています。

(下の写真の繭は抜け殻の状態です)

 

繭の脱出口はこんな小さな口です。(約幅2㎜、長さ10㎜)

 

羽化したばかりの成虫の姿です。

 

色鮮やかですね。

 

9月26日

自然状態の幼虫以降の現状を確認する為に再度現地に確認に出かけてきました。

野外で繭を見つける際にはシンジュ(ニワウルシ)の樹の状態がこのように膨らんで繭が作られています。

 

シンジュキノカワガの幼虫とヒメクロイラガによる食害で葉の無くなったシンジュの枝。

 

ヒメクロイラガ(参考までに写真添付)

 

 

 

 

参照文献、
NPO法人こどもとむしの会発行「キベリハムシ」

大阪昆虫同好会「大昆Crude No.62」
月刊むし「 No.560 2017年10月号]