誰でも知ってる国内産クロアゲハ? 本当に知ってる?一緒に調べてみませんか? | 昆虫漂流記

昆虫漂流記

西日本を中心に昆虫を追いかけています。✌
東へ西へ、過去に未来に昆虫求めて漂流していますが、
近年は、昆虫だけにとらわれず、自然全体から、
観察する眼を持ちたいと思いますのでよろしくお願いします。

誰でも知ってる国内産クロアゲハ?

本当に知ってる?一緒に調べてみませんか?

 

兵庫県姫路市にて撮影

 

クロアゲハ、誰もが「知ってる~」と云われる名前の蝶なのですが、

実際、カラスアゲハ類や、オナガアゲハ、ナガサキアゲハなども、区別無しに呼ばれている場合が多いようですね。

一瞬で、これらの黒いアゲハの種類を見分けているのは、

一般人から、変な趣味と呆れた顔で見られている昆虫宗教?に入信した虫好きの方々か、

今は絶滅危惧と化してしまった捕虫網を持って野山を駆け回る昆虫少年や少女達ぐらいな者でしょうね。

 

さあ、この皆さんがよくご存じと云われる、超一般種をどの様に記事にしていけばいいものでしょうか?
誰もが知っている事柄を、並べていきましょうか?

それでは、味が無いね!


では開幕としましょう!!

兵庫県宍粟市にて撮影

 

岡山県高梁市にて撮影

最初は自己紹介をと
学名は Papilio protenorでラテン語なのですが、発音も(パピリオ プロテノール)で数少ない英語読みと同じ昆虫です。

食草はミカン科の樹を主な食草としますが、

ナミアゲハと同様にミカン科の樹であれば、あまり種類を選り好みしない蝶で、

色々な場所で見る事ができます。

兵庫県宍粟市にて撮影

集団吸水の際には、アゲハ蝶の種類に関係なく、混ざって吸水姿を、見せてくれます。

 

生息地は北海道では見られないとされ、東北地方では少なく、東日本、西日本、南西諸島など温かい方面を中心として見られる種類になっているようです。
(余りの普通種の為に気が付かないのですが、北海道には居ないのですよ)

 

兵庫県宍粟市にて撮影

 

国外ではヒマラヤ周辺から、インドシナ半島から、中国南部、台湾、朝鮮半島、日本と広がり、日本が東、北限となります。

兵庫県宍粟市にて撮影

 

日本国内においても、本土周辺から奄美にまで見られる亜種と沖縄から南部で見られる2亜種に分けられています。
本土周辺から奄美までで見られる亜種は Papilio protenor demetrius
沖縄から南部で見られる亜種は           Papilio protenor sitalkes

 

変異と呼ばれる、季節差異や地域差異については、

季節差異は、

他の国産アゲハ類と同じように春型よりも夏型が大型で、裏面を飾る赤斑も夏型の方が目立ちます。

この事は、標本写真を添付された各種の図鑑が数多く流通しているので説明や写真は省略します。

 

地域差異と云われるこちらの方が興味深いものがあります。
地域差異の目立った差異と云われるのが、

アゲハチョウ科の多くに見られる翅の後方に長い尻尾のような突起の事で、

尾状突起と言われ、アゲハチョウ科の仲間に普通に見られる部分に、このクロアゲハには地域差があります。

日本国内本土においては、有尾型と云われる型が多く普通に見られるのですが、
世界的にはクロアゲハでは、尾状突起を持った型の個体群の方が珍しい部類になります。


赤い丸円が尾状突起

 

国内本土で尾状突起の長い型が見られる反面、南の台湾産は無尾型と云われる尾状突起が無いタイプになります。
国境周辺に当たる石垣島や西表島では、無尾型は少ないのですが、

周辺の島々からは、無尾型が採集された事例が多々ありますので、この辺りが観察できる分かれ目になっているのでしょう。
つまり奄美から北に分布の亜種(本土で普通に見られる亜種)と、沖縄から南に見られる亜種の一部には、尾状突起が見られますが、

重ねて沖縄から南部に見られる亜種には、尾状突起が無いタイプも見られると云う訳です。
また、その先島諸島周辺では、中間型(短尾型)も見られると云う訳です。

 

 

ややこしいですね。

でも大丈夫。
実はこれらの標本は、集めていますので写真にて紹介します。


ちなみにナガサキアゲハでは、日本国内産では尾状突起が無い無尾型である反面、外国産では有尾型がある事が主になり、クロアゲハとは、反対の状況になります。

ナガサキアゲハは先島諸島で、短尾型、有尾型が採集されていますが、こちらは台湾亜種と思われ、クロアゲハの意味する状況とは、少し違う事に気をつけて下さい。

 

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅表 無尾型  沖縄県与那国島産

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅裏 無尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅表 無尾型  沖縄県与那国島産

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅裏 無尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅表 短尾型  沖縄県与那国島産

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♂翅裏 短尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅表 無尾型  沖縄県与那国島産

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅裏 無尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅表 無尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅裏 無尾型  沖縄県与那国島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ雄翅表 有尾型  沖縄県石垣島産

沖縄・八重山亜種クロアゲハ♂翅裏 有尾型  沖縄県石垣島産

 

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅表 有尾型  沖縄県石垣島産

沖縄・八重山亜種 クロアゲハ♀翅裏 有尾型  沖縄県石垣島産

 

本土亜種 クロアゲハ♂翅表 兵庫県姫路市産

本土亜種 クロアゲハ♂翅表 兵庫県姫路市産

 

本土亜種 クロアゲハ♀翅表 兵庫県姫路市産

本土亜種 クロアゲハ♀翅表 兵庫県姫路市産

 

さらにややこしい話を持ち出す事は、皆さんには大丈夫なのでしょうか?
クロアゲハを含む、Papilio の仲間には人間が決めた種を超えて雑種と云う物が出来易い仲間になります。
クロアゲハとモンキアゲハ、モンキアゲハとナガサキアゲハ、モンキアゲハとシロオビアゲハ、

などこれらの仲間は成虫まで育つF1雑種が見られる事が知られ、異種とされていますが、遺伝子的には近い関係と考えられます。
一方、南西諸島などの南の島のカラスアゲハの仲間は以前は本土産とは亜種間の関係とされてきましたが、ヤエヤマカラスやオキナワカラスアゲハが本土のカラスアゲハとの間に雑種が出来ない事などから、遺伝子的に遠い種類と考えられています。
このような事から、クロアゲハをどの種類と近い関係と考えるのは、外見だけでは、考えてはいけない事が判ります。
と簡単に記述して、案内程度にとどめておきます。
この様な事に興味がある方は南山大学名誉教授 理博 阿江 茂さんの文献が詳しく書かれています。
なお台湾周辺のカラスアゲハの仲間の雑種については、1995年に姫路昆虫同好会の会誌特別号「遊蟲千年」にて「中華民国台湾省Papilio属 異種間雑種について」を写真と共に書かれています。


写真 遊蟲千年

 

では、昔はクロアゲハはどの様にとらえられていたのでしょう?。
いつも手元にある、
平山修二郎著、松村松年校閲「原色千種昆虫図譜」「原色續千種昆虫図譜」➡ (以前こちらで説明させて頂いています)では次のように、取り上げられています。


「原色千種昆虫図譜」では

東京井之頭産15-06-1932がクロアゲハ雄としてあげられています。


「原色續千種昆虫図譜」では

台湾省台北州烏帽子産25-07-1936がヲナシクロアゲハ雄とされています。
台湾ではクロアゲハの学名は下記の物が同物異名とされて、文献に紹介されています。

(学名は1つだと思うのですが?固い事情はここでは、止めておきます)
Papilio amaura Jordan, 1908 (synonym)
Papilio protenor var. euanthes Fruhstorfer, 1908 (synonym)
Papilio protenor euprotenor Fruhstorfer, 1908 (synonym)
Papilio sulpitius Jordan, 1909 (synonym)
また台湾では和名クロアゲハは 黑鳳蝶、藍鳳蝶、無尾黑鳳蝶 と表記されます。


では、もう少し昔では?と気になり、紫外線を避けるために奥に入れてある書物を引き出してきました。
こちらは奈良坂源一郎「蟲魚図譜」になります。

奈良坂源一郎(1854年(安政元)から1934年)は解剖学者でこちらは名古屋大学博物館に寄贈された書物の複製です。
この図譜については、月刊むし2009年4月号ギフチョウ特別号4において、

永幡氏により「本草学から博物学へ ~奈良坂図譜のギフチョウ~」と題して紹介された報文での本になり、

名古屋大学医学部第一外科同心会と名古屋大学博物館のご厚意により、100冊が複製版として配布されたうちの1冊になります。


内容の写真は添付できませんが、こちらのリンク(こちら)からナミアゲハが紹介されています。
この図譜では、クロアゲハの有尾型がナミアゲハと同じ名前「ユズムシ」として紹介されています。


かなり、能書きを垂れてきましたが、

ではクロアゲハに近い仲間や、よく似た蝶は?

オナガアゲハ 兵庫県宍粟市にて撮影

 

オナガアゲハ ♂翅表 兵庫県宍粟市産

オナガアゲハ ♂翅裏 兵庫県宍粟市産

まず国内では、オナガアゲハが姿や紋様がよく似ています。

 

海外では

 

 

Papilio alcmenor アルクメールアゲハ♂翅表

Wang Chin Phrae,Thailand January-2001

購入標本

 

Papilio alcmenor アルクメールアゲハ♂翅裏

Wang Chin Phrae,Thailand January-2001

 

アルクメールアゲハ
こちらは海外(東南アジア)では、クロアゲハの仲間に近い仲間です。
レテノールアゲハと云われていましたが、最近はアルクメールアゲハとよばれている蝶がこちらです。

雄しか手に入らず、「雌を手に入れるには稀な蝶」と云われてます。(虫屋さん伝聞)

 

またこちらは紋様がよく似ていますが、全く違う仲間です。

Agehana Elwesi シナフトオアゲハ

中華人民共和国 湖北省 武当山 June-2006

譲渡標本


シナフトオアゲハで特徴は尾状突起内に支脈が2本あります。
台湾に産する希少種フトオアゲハの代替種になります。

 

フトオアゲハはこちらです。台湾では保護蝶の最上級とされる種です。

平山コレクションから許可を得て撮影させて頂いています。

 

段々とクロアゲハから外れてきてしまったようですね。
今回の記事で国産クロアゲハの手持ち標本の各型を一様に紹介出来ました。
今回も長い間、お付合いありがとうございました。
では、そろそろお開きにしましょうかね!