ブタにかみ殺される | 店舗探し.comの過去コラム

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2010/07/15

「ゲリラ豪雨」とは、予測が困難な、突発的で局地的な豪雨を
言いますが、ここ数年よく耳にするようになりました。

かつては「集中豪雨」と呼ばれていましたが、「ゲリラ豪雨」の
方が、【予測不能】とか【同時多発的】とか【人が亡くなること
もある】といったニュアンスがより強調される感じがします。
恐怖心を煽るような表現で、注意をより強く喚起しようということ
なのでしょうか。

劇作家で演出家のつかこうへい氏が亡くなりました。
氏の初エッセイ『あえてブス殺しの汚名をきて』(角川書店)に、
次のような一節があります。

「・・・またもや恐ろしい事件が起きた。いや正確には新聞の見
 出しとして恐ろしい事件が発生したのである。

 『ブタにかみ殺される』

 ・・・どうして『養豚場で事故死』と常識的な屈折の仕方をさ
 せなかったのだろうか。

 ・・・新聞が社会の公器ならば、日常へのひるがえり方をふま
 えて言葉を選択しなければならないはずである。その思いやり
 こそが公器としての新聞の中立の在り方なのではないか。

 ・・・町内会の人々も四十九日過ぎたあと『あのうちのお父さ
 んはブタにかみ殺されたんだって』と、暇な奥さん連中が身振
 り手振りをまじえておしゃべりをしないわけがない。

 ・・・『ブタにかみ殺される』と書くことを日常化させてゆけ
 ば、それが伏線となって、いつの日か『下北沢で女性殺される』
 ではなく、『下北沢でブス殺される』『下北沢でブスが殺され
 やがってよ』という見出しが出現し、あげくの果てはそういう
 見出しそのものが姿を消し、かわりに相当の美人でないと殺さ
 れても新聞では扱わない、という時代が来ないともかぎらない」

つかこうへい氏の舞台で飛び交う激しいせりふとは対照的に、彼
は思いやりの人であり、とてもデリカシーのある人なのでした。
彼のデリカシーのありようは、接客業に携わる者が、顧客に対して
発揮するものに相通ずるものがあるのです。

駅ビルや大規模ショッピングモールには、ありとあらゆる種類の人
が、多数来館します。

店頭のポップの表現ひとつにしても、不用意な表現で、お客様を
傷つけたり、不快な思いを与えることのないように、十分配慮し
なければなりません。
つか氏のデリカシーに学ぶところはとても多いのです。

62歳というあまりにも早いつか氏の逝去が、つくづく残念でなり
ません。
ご冥福をお祈りいたします。