終わりのない叫び | 店舗探し.comの過去コラム

店舗探し.comの過去コラム

会員様向けメルマガに掲載された過去のコラムを掲載しています。

2013/1/23

1944年の今日1月23日、一人の画家がなくなりました。
『叫び』で有名なエドヴァルド・ムンクです。
 
「病と狂気と死が、私のゆりかごを見守る天使たちだった。」

ムンクは5歳で母親を、14歳で姉を、いずれも結核で亡くしました。
自身も虚弱な子供で、生き延びられないのではと心配されていた
といいます。
 
私生活では生涯独身を貫き、女性関係でも長く安定的な関係を築
くことはありませんでした。

貧乏画家であったムンクは、トゥラ・ラーセンという、コペンハ
ーゲンの裕福な名家の一員で、虚栄心の強い女性と激しい恋に落
ち、3年間交際した後、別れました。
彼女は仮病を使ってムンクをおびき寄せ、よりを戻さないと自殺
すると銃を持ち出しました。口論の上もみ合いになるうち、銃が
暴発してしまいました。
どちらがピストルを撃ったのかは不明ですが、弾丸はムンクの左
中指の第一関節から先を吹っ飛ばしてしまいました。

ムンクはこの頃から精神が不安定になってアルコールに溺れるよ
うになります。
彼の【生】は死と常に隣り合わせにあり、「愛」でさえも、彼の
不安を払拭することはできなかったのです。
 
『叫び』は、こうしたムンクの心の叫びを描いたと勘違いされが
ちですが、そうではありません。
後に『叫び』を描いた時のことを次のように回想しています。
 
“ひどく疲れたので、私は立ちとまって手すりに寄りかかった。
 濃紺の闇に沈むフィヨルドとオスロの街を眺めると、その上空
 に、まるで剣から滴る血のように、真っ赤な雲が垂れこめてい
 た。友人はすでに先に行ってしまった。
 私は独り立ちつくし、恐怖に震えていた。
 すると、自然を貫く大きな叫び声が聞こえ、いつ果てるともな
 く続いた。”
 
『叫び』は、自然を貫く大きな叫び声を聞くまいと耳を押さえて
いる様子を描いたものなのです。
 
私たちのような平凡な一般人でも、万事が不調で不安にさいなま
れると大きな声で叫びたくなります。
しかし、不安にいたたまれずに、つい大きな叫び声をあげてしま
うのは私たちだけではありません。

私たちをを取り巻く【自然】や【世界】自身でさえ、思わず悲鳴
を上げたくなることがあるのでしょう。

ムンクがどうしても聞きたくなかった
「自然をつらぬく、けたたましい、終わりのない叫び」
とは、神のうめき声だったのかもしれません。
 
ムンク没後69年が経ちました。「69」は「ムンク」に通じます。
ムンクが遭遇したように、今、社会全般が、漠然として不気味な
不安にさいなまれて悲鳴を上げているように思えます。

しかし、「不安」とは、そもそもこの世にあるすべての存在が、
抱えこまなければならない宿命にあるのかもしれません。
だとしたら、自身を取り巻く不安からも、目をそむけずに向き合
うこと以外に、活路を見出すことなどできないのです。