選ばなかった道 | 店舗探し.comの過去コラム

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2012/10/22

10月20日は皇后陛下美智子さまのお誕生日でした。
78歳になられたとのことです。
美智子さまは、平成7年、次の歌を詠まれました。

「かの時に 我がとらざりし 分去(わかされ)の
           片への道は いづこ行きけむ」

「あの時に選ぶことのなかった分かれ道の片方は、どこへ通じて
いたことでしょう」
朝日新聞の天声人語で引用された時の訳によれば、こういった意
味だそうです。

結婚、就職、独立開業・・・。

人は人生の岐路に立った時、必ずどちらか一方の道を選ばなけれ
ばなりません。
選ばなかった道はどこへ通じているのか、とても気になりますが、
検証することも、ましてややり直すことも決してできません。

『塀の中の一週間』(ディスカバリーチャンネル)というドキュ
メンタリー番組があります。
逮捕された者たちが収容施設に入って過ごす最初の1週間を追って
いきます。

逮捕されることなど一度もないままに一生を終える人がほとんど
ですから、この番組は、選ばなかった“片への道”を覗き見るよ
うで興味を引かれるのです。

毎回、3人が取り上げられます。
中には釈放されて自由を手に入れられる者もいれば、長期刑など
過酷な未来が待っている者も、収容所の環境に適応できずに別な
施設に移送される者もいます。

29歳のクリストファーは家庭内暴行で逮捕されました。
逮捕の瞬間を娘に見られたことを悔やみ、少しでも早く関係修復
したいと保釈を望みます。しかし、友人に依頼したたった100ドル
の保釈金すら工面できません。

26歳のコニーは何年も前の性的暴行、誘拐、強盗の容疑で逮捕さ
れたことが不本意でたまりません。
2日目に大暴れして、独房に閉じ込められてしまいます。
有罪となれば18年の刑になる恐れがあります。

映画に出てくるような見るからの悪人面もいますし、いかにも気
の弱そうな中年や、まだあどけなさが残る甘ったれの若者もいま
す。
同部屋の人間に毒づいたり、看守に殴りかかるような男たちもい
ますが、だれもが収容された日にはびくびくとし、現在の境遇を
嘆きます。

無実なんだと会う人ごとに必死で訴えたり、後悔で泣き崩れたり、
神に恨み言を述べたり、とその言動は様々ですが、逮捕されて収
容されることに平気でいられる人間は一人もいません。

不思議なことに、家族とのトラブルが原因で逮捕されたものでさ
え、家族を執拗なまでに恋しがることも共通しています。
不適の笑みを浮かべたり、へらへらといっこうにこたえない人間
が出てくるだろうと予想していたのですが、見事に裏切られまし
た。

別の施設に移送されることになったある男は、こう言い残して出
ていきました。

「ここは最低な場所だったが、二度と来ないと誓うためには必要
 な経験だった。」

『塀の中の一週間』を見ていると、これまで刑務所にご厄介にな
ることが“我がとらざりし分去の片への道”であったことの幸福
を実感します。
「臭い飯」がどんなものか食べてみるのも経験だ、などとは決し
て思ってはいけないのです。

「我がとりて、今進みつつある道」の前だけをしっかり見つめる
ことが大切なのでしょう。