泥の河 | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/10/5

先日、NHKBSプレミアムで『泥の河』(小栗康平監督)を放映して
いました。
川べりに住む食堂の少年と、廓舟に暮らす姉弟との短い交友を描い
た名作で、キネマ旬報ベストテン第1位を獲得し、数々の賞も受賞し
ました。
 
映画の中で廓舟に住む少女が食堂の米びつに手を突っ込みながら
こう言います。
 
「お米、温い(ぬくい)んやで。冬の寒いときでもな、お米は温い
 ねん。
 お米がいっぱい詰まっている米びつに手を入れて温もっていると
 きが一番幸せや。
 お母ちゃんそう言うてたけど、ほんまやなあ。」
 
1981年に封切りされた本編を見たとき、ノスタルジーを感じて甘い
感傷に浸った覚えがあります。
しかし今聞いてみると、このせりふはリアリティのある切実な実感
として胸に迫ってくるのです。
 
虚飾の好景気であるバブルがはじけて以降、時代は反転し、日本は
緩やかに衰退の道を辿り始めました。

昭和時代には大儲けをしていましたので、日本の米びつに米は入り
きらずに、そこら中に溢れてちらばっていました。
しかし、いつしか食べる分の稼ぎができなくなってしまい、米びつ
からこぼれた米をかき集めて不足分を補うようになりました。

以来、水を増量して嵩増しするなど、節約を重ねながら何とかやり
繰りしてきましたが、それも限界が見えてきています。
日本の米びつはいつしか底が見えており、国民全員の腹を満たすだ
けの量の確保すら覚束なくなってきているようです。
 
銀座にはユニクロが聳え立ち、低額均一料金の居酒屋が勢いよく
チェーン展開しています。
居抜き省エネのレストランが時代の寵児となり、弁当店は200円台
の価格でしのぎを削っています。
 
お米が、米びついっぱいに詰まっているだけで幸せを実感できる
時代は、もうそこまできているようです。

しかし、飽食やバブルを経験した私たちにとっては、単純に不幸な
時代の到来とは言い切れない気がします。
 
『泥の河』が描写した時代が決して悲惨一辺倒ではなかったように、
人と人とが思いやり身を寄せ合う社会は、ひもじい冬でもほんわか
と温かいでしょうから。