2011/6/17
ごく私的なことで恐縮ですが、原発関連のニュースで「ベント」という
言葉を目にするたびに、ちょうど30年前のことを思い出します。
『BENT(ベント)~ねじまげられて~』
という舞台のことです。
昨年亡くなった声優の野沢那智さんが率いていた劇団薔薇座が、
1981年に六本木の俳優座劇場で上演しました。
この作品はマーティン・シャーマンの戯曲で『ベント/堕ちた饗宴』として1997年に映画化もされています。
第二次大戦中のナチス収容所内で、同性愛者の男たちが繰り広げる物語です。
ハイライトは、終盤、愛し合う二人の男が収容所内で黙々と続ける、
石積みの作業です。
部屋の片隅に山と積まれた石を、反対側まで運びます。
運び終わるとまた、元の位置まで石を運ぶ。
これを延々と続ける、地獄のような単純作業です。
その間、二人は互いに見詰め合うことも触れ合うことも出来ません。
言葉だけで愛を交し合うのです・・・。
30年も前の舞台を鮮明に覚えているのは、この舞台鑑賞が、当時
付き合いだした彼女との初デートだったからです。
まあ、初デートが同性愛を扱った舞台だなんて、私はすでに相当
‘ねじまがった’性格だったのです。
隣の席には、同性愛者ではとの噂があった大物俳優が、随分と若い
イケメン君を横にはべらせて、仲睦まじげにしていました。
緊張感溢れる舞台に息は詰まるようだし、視野の端に見えている、
隣の大物俳優の手がどんな動きをするのか気になってどぎまぎするし、反対隣で舞台を凝視している彼女に、初デートから手を伸ばしていいのかどうかの判断に迷っているうちに、あっという間に舞台は、
悲劇的なクライマックスを迎えているのでした。
終演後、いったいデートはどうなったのか、今ではすっかり忘れてしまって、まったく記憶がありません。
ただ、その後まもなく、彼女には手ひどく振られてしまい、わけのわからない初デートで観た舞台の記憶だけが、鮮明に残ったのでした。
『ベント』はその後、なんどか再演されています。
1986年には、役所広司さんや高橋幸治さんが、2004年には椎名桔平さん、遠藤憲一さんなどで公演しています。
いずれの舞台にも多くの観客が詰めかけたでしょうが、初デートの
メニューとして選んだ人は、ほとんどいなかったに違いありません。
今度の日曜日は「父の日」です。
ご年配の【父】を持つ息子、娘の立場の皆さん!
せめてこの日ぐらいは、父親が若かりし頃いかに女性にもてたのか、眉唾ものの自慢話であっても、うんざりした顔など見せずに、にこやかに付き合ってあげてください。