まず、それまでは。 | 店舗探し.comの過去コラム

店舗探し.comの過去コラム

会員様向けメルマガに掲載された過去のコラムを掲載しています。

2012/6/15

「よっ。澤瀉屋(おもだかや)!」
 
市川亀治郎さんが四代目市川猿之助を襲名する披露興行が行われ
ています。

九代目市川中車を襲名する俳優の香川照之さん、その長男で初舞
台を踏む五代目団子さん、香川さんの父で二代目猿翁となる三代
目猿之助さんが一つ舞台で口上を述べました。
 
歌舞伎は終わりのない芝居と言われます。

たとえば『寿曽我対面』。

曽我兄弟が敵の工藤祐経と対面したものの祐経は、自分には大切
な役目があるのでそれが終われば潔く討たれてやる、といいます。
そして、

「まず、それまでは。方々(かたがた)さらば。」

これで幕が閉まります。
決着がつかないままに次回へ続くとなるわけです。
 
もうひとつ、大盗賊・石川五右衛門の「絶景かな、絶景かな。」
という台詞で有名な『楼門五三桐』。

捕り手に追われた五右衛門が実父の仇、真柴久吉と出会い、手裏剣
を打ちます。
久吉は柄杓でそれを受け止め、「巡礼にご報謝」と双方天地でにら
み合ってなぜか再会を期したところで幕。
 
このように、白黒を決定的にはつけずに先延ばしにするという日本
独特の文化は、伝統芸能にも現れています。
 
香川照之さんと二代目猿翁さんは実の父子です。
猿翁さんと母親である浜木綿子さんが離婚した後、長く確執が続い
ていました。

最近も関係が修復したとの報道や同居の破綻を取り沙汰されていま
すが、本当のところははっきりわかりません。
根っからの役者である二人は、複雑に絡み合った愛憎に決着をつけ
ないままに虚実皮膜を生きていくのかもしれません。
 
『楼門五三桐』は新橋演舞場七月大歌舞伎で上演されます。
二代目市川猿翁さんが真柴久吉を演じるそうです。
石川五右衛門役は市川海老蔵さんです。
 
久吉   「石川や 浜の真砂は尽きるとも」
五右衛門 「や、何と」
久吉   「世に盗人の 種は尽きまじ」
 
はっきりとした決着をつけない男たちによる『楼門五三桐』は夜の
部の上演です。
チケットは絶賛発売中とか。