ふたりの少女 | 店舗探し.comの過去コラム

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2012/8/22

つい行きそびれていた『フェルメール光の王国展』の会期が延長
されたとの記事を目にして、ようやくフェルメール・センター銀座
に足を運びました。

フェルメール通としても有名な生物学者福岡伸一さんが監修する
『フェルメール光の王国展』ではフェルメールの全37作品すべてが
一堂に展示されています。
もっとも、作品はすべてリ・クリエイトという最新のデジタルマス
タリング技術によって作られています。
福岡さんによれば、

“リ・クリエイトとは複製でもなく、模倣でもない。あるいは洗浄
 や修復でもない、文字通り、再・創造である。
 作家の世界観・生命観を最新のデジタル画像技術によって翻訳し
 た新たな創作物である。”

会場には、フェルメール全作品が原寸大で、所蔵美術館と同じ額装
を施して年代順に展示されているという、従来にない画期的な取り
組みなのです。

フェルメール作品と言えば一つの展覧会でせいぜい1枚か多くても
2枚の作品しか展示されることがありませんでしたから、いっぺん
にすべての作品が見られるということは贅沢極まりないのです。

会場内は写真撮影もOKとあって有名な作品に向かって次々シャッター
を切る音だけが際立っていました。

「牛乳を注ぐ女」「青衣の女」「絵画芸術」。

中でも一番多くの人に撮影されているのは、やはり「真珠の耳飾り
の少女」でした。

しかし、人ごみの割には、観客の反応は今一つ盛り上がりに欠けて
みえました。
確かに作品は有名なフェルメール作品に違いないのですが、今一つ
心に迫ってくるものが少ないのです。

翌日、『マウリッツハイス美術館展』(東京美術館)に行って、そ
の謎が解けました。

こちらには本物の「真珠の耳飾りの少女」が展示されているのです。
最前列で見るためには長い列に並ばなければなりませんでしたので、
観客の肩越しでしか見られないものの、すぐに鑑賞できる方を選び、
作品に向かいました。

遠くから少女の姿が目に飛び込んできた瞬間、その表情に釘付けに
なってしまいました。

特に少女の頬のあたりの質感は、奇跡的な柔らかさでふわっとして
います。
背景の黒に点々と灯る光の粒立ちが、耳元の真珠の輝きと相俟って、
少女の表情を生き生きと浮き上がらせているのです。
リ・クリエイトによって創作されたものにはなかった圧倒的な感動
を本物からは感じ取ることが出来ました。

銀座と上野のふたりの少女は、全くの別人でした。
最先端の科学技術をもってしても、真贋の差を埋め尽くすことは到
底できないということなのでしょう。

しかし!

2つの作品の間に横たわる“差異”を、デジタルな言語に翻訳するこ
とが出来るようになれば、いずれはリ・クリエイト作品であっても、
本物と寸分たがわぬ感動を、私たちにもたらしてくれるようになる
かもしれません。