食べる、寝る。起きる、食べる。 | 店舗探し.comの過去コラム

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2013/8/23

『たべるダケ』は、テレビ東京で金曜深夜に放送されている
ドラマです。
原作は『月刊!スピリッツ』(小学館)で連載中の漫画です。
元栄養士という経歴の高田サンコさんが作者です。

料理を扱った漫画やドラマは、既にジャンルとして確立された
感があります。
『たべるダケ』も食べることがテーマとなっていますが、既存
のグルメ作品とは一線を画しています。

高級料理が登場するわけではありません。店を紹介することも
ありませんし、大食いを競うわけでもありません。
主人公のかわいい女の子A(漫画では名前がない)が、ハンバー
グやら魚の煮付けを、ただおいしそうにそして官能的に‘食べ
るだけ’なのです。

『たべるダケ』の典型的な展開を要約すると次のようになりま
す。

①何か悩みを持った人Bの前に主人公の女の子Aが現れる。
②BはおなかをすかしているらしいAにご飯をおごる。
③Aはひたすら食べる。
④解散。

女の子は、脇目もふらずに食べまくります。一口ご飯を食べる
とうれしそうに目を細め、頬は上気し、目尻は下がり、そして
目はうるんでいきます。
彼女が食べている様子は見ている人を惹きつけてやみません。

しかし、彼女は「いただきます」と「ごちそうさま」以外、一切
しゃべることはありません。
いつの間にか現れては何かを食べ、ただ去っていくのです。

テレビでは主人公を、ロックバンド「ミドリ」の元ボーカル、
後藤まりこさんが演じています。
彼女が食べるとき、唇はセクシーに動き、おいしそうな表情には
恍惚感が漂っています。その食べっぷりには、見ているこちらも
思わず引き込まれてしまうのです。

生きとし生けるもの、すべては食べ、寝て、起きてまた食べます。
嬉しくて食べ、悲しくて食べる。
規範に沿って食べるあり、欲望に任せて食べるあり。

食べる、寝る。起きる、食べる。

生きることは食べること。食べることは死に近づくこと。

食べるという行為の中には、生命の本質が宿っているのでしょう。
人が食べているところをじっと眺めることは、生命の息づきを
感じることなのです。

『たべるダケ』に登場する男たちが主人公に魅了されるのと同じ
ように、毎週金曜深夜になると、つい『たべるダケ』に見入って
しまうのです。