思春期に少年から 大人に変わる
大人とは、裏切られた青年の姿である。
途中、中学時代に私がお世話になつた豊田のお父さんのお墓におまゐりして、バスの発着所にいそいだ。どうだね、君も一緒に蟹田へ行かないか、と昔の私ならば、気軽に言へたのでもあらうが、私も流石にとしをとつて少しは遠慮といふ事を覚えて来たせゐか、それとも、いや、気持のややこしい説明はよさう。つまり、お互ひ、大人になつたのであらう。大人といふものは侘しいものだ。愛し合つてゐても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。なぜ、用心深くしなければならぬのだらう。その答は、なんでもない。見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎたからである。人は、あてにならない、といふ発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは、裏切られた青年の姿である。私は黙つて歩いてゐた。突然、T君のはうから言ひ出した。
「私は、あした蟹田へ行きます。あしたの朝、一番のバスで行きます。Nさんの家で逢ひませう。」
「病院のはうは?」
「あしたは日曜です。」
「なあんだ、さうか。早く言へばいいのに。」
私たちには、まだ、たわいない少年の部分も残つてゐた。
ーー太宰治さん「津軽」より。
おとなの階段上る
大人とは、裏切られた少年の姿である。
「何時までも押していて好い?」
「好いとも」
二人は同時に返事をした。良平は「優しい人たちだ」と思った。
(中略)
ところが土工たちは出て来ると、車の上の枕木に手をかけながら、無造作に彼にこう云った。
「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」
「あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら」
良平は一瞬間呆気にとられた。もうかれこれ暗くなる事、去年の暮母と岩村まで来たが、今日の途はその三四倍ある事、それを今からたった一人、歩いて帰らなければならない事、――そう云う事が一時にわかったのである。良平は殆ど泣きそうになった。が、泣いても仕方がないと思った。泣いている場合ではないとも思った。彼は若い二人の土工に、取って附けたような御時宜をすると、どんどん線路伝いに走り出した。
ーー芥川龍之介さん「トロッコ」より。
君は静かに 音もたてずに おとなになった
生きて行く力
いやになってしまった活動写真を、おしまいまで、見ている勇気。
ーー太宰治さん「碧眼托鉢」より。
いつの世も絶えず変わりて変わらない水も時間も巡りて流るる
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人也
ーー松尾芭蕉さん
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
ーー鴨長明さん「方丈記」より。
大人ぶる青年おのれにブルブルし若葉マークをおのれに感ず
晴天の霹靂突然青年はおのれの中に「大人」を見いだす
ーーby 古い会社の平パート
special thanks to 林誠司さん&ガラスの迷宮さん
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林誠司さん、ガラスの迷宮さん、ありがとうございました![立ち上がる](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char4/650.png)
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①【林誠司さん 俳句オデッセイ】「舟で始まり舟で終わる芭蕉の旅」
https://ameblo.jp/seijihys/entry-12768568829.html
②【ガラスの迷宮- raindrop_5588spさん】「月日は百代の過客にして -芭蕉の時間軸と旅 【超訳】」
https://ameblo.jp/raindrop5588sp/entry-12520771729.html
③【ガラスの迷宮- raindrop_5588spさん】「あらたふと青葉若葉の日の光 - 芭蕉のテクニカル・エクスタシー」
https://ameblo.jp/raindrop5588sp/entry-12537960054.html
「時」という
名の水流に
「おのれ」なる
舟を浮かべて
沈みつ浮きつ