読書メモ「戦史の余白」(大木毅) | IN THE WIND

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副題に 三十年戦争から第二次大戦まで とあるように、17世紀から20世紀の古今東西の戦争にまつわる隠れたエピソードを集めたエッセイ集。かなりマニアックな内容でもともとはシミュレーションゲームのウェブマガジンで連載されていたという。万人が親しめる内容ではないが、過去の人々が残した様々な記録から、「こんなことまで」と思うような細部をすくい取って現代の我々に知らしめてくれる歴史家の営みの緻密さに改めて驚かされる。


ナポレオンのロシア大遠征では、補給の重要性を認識していたことが仇になり、ナポレオンが目論んだ短期決戦が叶わなかったという見立ては面白い。ナポレオンは素早い進軍で敵を圧倒するのが常だったが、大量の物資を積んだ車列を伴ったロシアへの進軍では速度が落ち、ロシア軍に退却されて早期に雌雄を決する機会が失われたという。そして遠征が長引いたために物資も結局足りなくなり、冬将軍の到来もあって壊滅的な敗走を余儀なくされたと説明する。


第二次大戦中の北アフリカ戦線で砂漠の狐の異名で知られたドイツ軍のロンメル将軍については、戦略的な見通しに乏しかったと辛口の見方を披露する、戦場での優勢に乗じて補給を考慮に入れない進軍を続け、結局退却せざるを得なくなり、戦略的に得るものはなかったという。こうした見解は著者によるロンメルの評伝と重複するが、改めて簡潔に整理された形で読めたのはよかった。


ドイツとイギリスの空軍が死闘を演じた英本土航空戦の説明も興味深い。そもそもドイツ空軍は爆撃機、護衛の戦闘機も戦略爆撃にふさわしい能力がなかったことを自覚しつつ、国力の限界から戦略爆撃に向いた航空機開発を断念せざるを得なかったと指摘。そして英軍によるベルリン爆撃に激怒したヒトラーがロンドン爆撃を命じたことで、周辺の航空基地や整備工場への攻撃が手薄となり、英空軍がダメージを受けながらも持ちこたえられたというのだ。


日本軍については真珠湾奇襲を成功させた連合艦隊司令長官の山本五十六にページを割く。日本海軍が主力空母4隻を失ったミッドウェー海戦のさなか、山本が戦場の後方で待機していた旗艦・大和の艦内で将棋に興じ、空母喪失の報を受けても駒を指す手を休めず「ほう、またやられたか」と泰然としていたというエピソードを検証。発信源は山本のそばにいた従兵の回顧録というが、他の将兵が残した文献と突き合わせて信憑性を検討し、従兵が他の場面と混同したもので、事実ではないと結論付けた。


ナポレオンの敗走をめぐる話は戦史の本筋に近く、決して余話ではないとは思うものの、大半はかなりマニアックで興味が湧きづらく読み進むスピードも落ちがちながらなんとか読了。この著者にはまだまだ興味がそそられるタイトルの作品があるけれど、あまりにマニアックな内容かもしれないと思うと、なかなか手を延ばせないでいる。(作品社)


【29日の備忘録】
休肝日1日目。朝=ご飯1膳、ベーコンとシイタケのソテー、リンゴ、昼=肉うどん、ミニトマトと茹でブロッコリー、夜=豚バラとハクサイのレンジ蒸し。体重=60.4キロ。