読書メモ「安保論争」(細谷雄一) | IN THE WIND

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集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を含む安保関連法制の制定をめぐり、2014年から2016年にかけて推進派と反対派が激しく対立した論争を振り返るとともに、新たな安保法制の内容、制定の意義を解説する。著者は外交史、国際政治の研究者で、政権側の諮問機関であった安保法制懇のメンバーを務め、憲法解釈の変更、安保法制の整備を推進してきた立場ではあるが、現実の国際情勢に基づいて一連の法制の必要性を説いた論考は説得力を備えている。

 

米国との同盟関係によって戦後日本の平和は守られてきたが、現代はサイバー空間や宇宙空間まで安全保障領域に入り、地理的範囲を超え自国防衛と他国防衛の境界があいまいになったと指摘。平和を維持するために緊密な国際的連携が必要な時代に古い安保法制では対応できず、それを不可能とする従来の憲法解釈の変更が必要なのは不思議ではないとし、新たな安保法制は「自国のことのみに専念」するのを排した憲法前文の理念にも合致すると強調する。

 

集団的自衛権の行使によって米国の戦争に巻き込まれるという反対派の主張に対し、20世紀前半は中立に固執した末に2度ドイツに侵攻されたベルギーが第2次大戦後は主体的にNATO結成に動き、以降は侵略されていないと反論。さらにNATO域外のウクライナがロシアにクリミア半島を併合され、東部を中心に侵攻されている現状にも触れ、集団的自衛権の行使や同盟強化が戦争を招くという思考は、国際社会の潮流を理解しない的外れの議論だと強く批判する。

 

対話と協調による外交的解決を優先する主張については、米軍基地を追い出したフィリピンが南シナ海で中国の強権的な行動に圧倒されている現状を例示。東シナ海で中国との緊張が増す日本が米国との同盟を解消し、在沖米軍が撤退すれば中国は対話ではなく、力による現状変更に踏み出ると警鐘を鳴らす。外交的手段と軍事的手段を巧みに組み合わせてこそ対話と協調も効果を発揮し、対話のみであらゆる摩擦や脅威を解消できるとの考えは錯覚だと説く。

 

一連の論争では集団的自衛権の行使容認に注目が集まったが、新たな法制の中心は国際平和協力活動や後方支援活動に関するものだとも指摘。従来の自衛隊法やPKO協力法は自衛隊の単独行動を前提とし、他国との協力に制約が大きかった。他国と共同で人道支援活動中に攻撃を受けても、自衛隊は交戦できないのでその場を離脱するしかなかったという。新たな法制は従来法の隙間や不足を埋め、自衛隊の海外任務をより円滑にするという。

 

本書で気になったのは反対派への嫌悪感を驚くほど隠さないことだ。論争の本質は、安全保障環境の悪化に合わせて安保法制を変えるべきかどうかであったのに、反対派は安全保障政策をどうすべきかを具体的に論じず、感情論で集団的自衛権を軍国主義や戦争と結び付け、安保関連法案を「戦争法」と攻撃して意図的に誤ったメッセージを発し、より良い安全保障政策を探る建設的論議をできなくしたと強く非難する。よほど腹にすえかねているらしい。

 

さらに、戦前のロンドン海軍軍縮条約をめぐる統帥権干犯問題まで引き合いに出し、国際社会の潮流を理解せず、自らの正義が世界で通用するという態度は戦前の軍部も現在の平和主義者も変わらない、とこきおろす。デモで大きな声で叫んで安全保障環境が好転し、ロシアや中国が強権的に振る舞うのをやめ、シリアの内戦が終結するなら私も大きな声で叫びたい、とまで揶揄するのは、やや大人げない気もするがどうだろうか。(ちくま新書)。

 

【26日の備忘録】

休肝日4日目。朝=ご飯1膳、ミンチとキャベツのオムレツ、リンゴ、昼=牛丼、夜=ミンチ入りジャガイモのガレット。体重=59.7キロ。