日田という口の中に-と+という一対の陰陽神が封じ込められている暗号。一対は二柱という「に・ほん」
日田という記号に宿る、陰陽と女神「日田」という二文字は、目にした瞬間から、単純でありながら純粋という、どこか説明しきれない深みを感じさせる。それは単なる地名ではなく、音であり、形であり、そして古代の思想が静かに封じ込められた記号のようでもある。「日」は太陽であり、天であり、火の象徴だ。阿蘇、久住へと連なる火山の記憶、鍛冶や製鉄に代表される火の技、そして日田に点在する十五カ所の金山。天から降り注ぐ光と、大地の奥に眠る火の力。そのすべてが「日」という一字に凝縮されている。一方の「田」は、大地であり、水であり、命を育む場である。御饌(みけ)としての食、女神の気配、そして天と地を往還する鷹の象徴性。「日田=日鷹」と読めるこの名は、天上の力が地上へ降り立つ場を静かに示している。さらに興味深いのは、「日田」という音そのものが、口の中に「+」と「-」の陰陽を含んでいるように感じられる点だ。宇佐神宮の中央に祀られる比売大神の「比」は、「ヒ」と「ヒ」、二つを重ねた文字である。また、国東の両子山(ふたごやま)も、明確に二神を祀る山だ。これらは、陽と陰を同時に含み、対立ではなく、一対で世界を成り立たせる原理を語っている。『豊後国風土記』に登場する日田の女神・久津媛と五馬姫は、まさにその象徴である。久津媛は「比佐津媛」とも記され、「比(ヒ)」を重ね持つ女神だ。五馬姫とともに語られるこの二柱は、日田を二分する筑後川の、北の久津媛と南の五馬姫として、日田市全体の統合を意味しているようにも見える。天照大御神と瀬織津姫、卑弥呼と台与、豊玉姫と玉依姫。日本神話や古代史に繰り返し現れる「二人で一つ」の構造は、日田の女神たちとも深く響き合う。伊勢が「日」であり、出雲(火山神=ヒサ神)が「田」であると感じられるのも、同じ世界観の延長線上にあるのだろう。日本という国そのものが、双柱という「二本」によって支えられてきたのかもしれない。日田という地名は、太陽と水、天と地、二神という一対、そして陰と陽が静かに重なり合う場所を示す記号なのだろう。そして、その素晴らしい日田の地に住む私たちは、知らず知らずのうちに、古代から受け継がれてきた陰陽の調和と女神の祈りに包まれながら、新しい一年を歩み始めている。この年のはじまりにあたり、そのことを、そっと心に留めておきたい。