(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 13
部屋を出て、ホテルの入り口に行くと、既に数人の幹部が待機していた。皆、不安そうな表情である。
「さぁ、行ってくるよ。後のことは、しっかり頼んだよ」
婦人の目には、一様に涙ぐんでいた。
「大丈夫だよ。行くのは、ぼくじゃないか」
伸一は、声をかけ、小沢弁護士と共に車に乗り込んだ。見送る人びとに会釈を返しながら、彼は思った。
”こうして心配してくれた、この人たちのことを、私は、永久に忘れないであろう”
蒸し暑い午後であった。車は、大阪城内にある大阪府警察本部に向かった。
府警に着くと、さっそく山本伸一は、公職選挙法違反の容疑者として取り調べられた。そして、午後七時過ぎ、府警は、待ち受けていたかのように伸一を逮捕したのである。
午後七時ごろと言えば、十二年前のこの日、戸田城聖が出獄した時刻と、奇しくも同じであった。
伸一には、二つの容疑がかけられていた。
・・・ 。
伸一にとって、これほど心外なことはない。百円札事件を指揮した首謀者の大村昌人という東京の地区部長は知っていたが、今回の派遣員ではなかった。
また、伸一は、戸別訪問で逮捕され、伸一の指令であることを認めたという京都の会員についても、顔も名前もしらないのである。
”どこかに落とし穴があるにちがいない。
いや、あるいは、当局の捜査が、恐るべき予断と偏見をもって行われ、それに誤解と曲解が重なり、このような事態になったのだろうか。
だが、真実は一つだ。やがて、一切が冤罪であることが、明らかになるであろう!”