(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 12
伸一は、大きく頷きながら、自分にもまた、法難の避けがたいことが予感された。
”先生の弟子として、広宣流布に生き抜く限り、いつか、一身に迫害を受ける日が来るにちがいない。その時こそ、悠然として難に赴く勇敢な師子でありたい”
彼は、自らに言い聞かせた。
山本伸一が、あの日、戸田城聖との語らいのなかで予感した法難は、一カ月を経ずして現実となった。
今、大阪行きの飛行機の中にあって、伸一は思った。
”戸田先生は、師子であられた。なれば弟子であり、師子の子である私もまた、師子であらねばならない。
いよいよ、まことの師子かどうかが、試される時が、遂に来たのだ!”
その時、機内放送で、着陸の準備に入ったことが告げられた。
いよいよと思った時、今日が七月三日であることを、伸一は、再び思い起こした。
十二年前の、昭和二十年七月三日、戸田城聖は、豊多摩刑務所から出獄した。
”そうか、この宿縁の日に、私は出頭するのか・・・”
彼は、ぎゅっと拳を握り締めた。心は、不動の落ち着きを取り戻し、胸に新たなる情熱が込み上げてくるのを感じた。
伸一の乗った飛行機は、ほどなく伊丹空港に着陸した。
そこから車に乗り、ひとまず、弁護士の小沢清の宿となっている肥後橋のホテルに向かった。
ホテルのロビーには、関西の首脳幹部をはじめ、関係者が待機していた。
簡潔な打ち合わせを終えた伸一は、新しいシャツに着替えた。そして、いよいよ大阪府警に出頭しようと、ソファから立ち上がった。