(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 11
戸田の言葉は、未来を予見しているかのようでもあった。
「さて、問題は、このあとの箇所だよ。第六天の魔王は、さらに、こう言うのだ。
『もしも、それでも法華経の行者を退転させられなかったら、われ自らが降りていって、国主の身に入り代わって、脅してみる。
それで、どうしてとどめられないことがあろうか』
つまり、最後は、第六天の魔王が、『権力者の身に入って、迫害を加え、信心をやめさせ、広宣流布の流れを閉ざしてみせる』と豪語しているんだよ」
こう言って、戸田は笑ったものの、すぐに険しい表情に戻った。
「権力者の迫害は、一言で言えば、・・・つまり僭聖増上慢(せんしょうぞうじょうまん)によるものということになるが、実は、これが厄介なものなんだよ。
僭聖(せんしょう)というのは、聖人のように振る舞っているが、内面は邪見が強く、貪欲に執着する僧をいうが、それが権力に近づいて、正法を行ずる者を迫害するという構図だ。
大聖人御在世当時の、極楽寺良観(真言立宗の僧、”生き仏”のように振る舞ったが、政治権力と癒着し、讒言を用いて大聖人門下を迫害)もそうだ。
聖人と仰がれる人物が権力と手を結び、迫害の急先鋒となる。そうなると、何が『正』で、何が『邪』なのかも、容易にはわからなくなってしまう。
それが、三障四魔が、・・・。 紛らわしく、入り乱れて、さまざまな形をして現れてくるだけに、何がなんだか、さっぱりわからずに右往左往し、退転していく。
それこそが、魔の意図するところといえる。
伸一君、これで広布の道が、いかに険しいかがよくわかるだろう」