(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 10
「この権力との戦いは、並大抵のものではない。それは、第六天の魔王(正法を信じるものに害をなす四魔の一つ)との戦いになるからだ」
戸田は、傍らの御書を手に取ると、パラパラとページをめくった。
「ここだ。伸一君、ここを読んでごらん」
伸一は、御書を受け取ると、戸田が指さした箇所を、声をあげて拝読し始めた。
「三沢抄(みさわしょう)」の一節である。
「第六天の魔王、このことを見て驚いて言う・・・
・・・我みずから、うち降りて、国主の心身に入り代わりて、脅してみるに・・・」
戸田は、そこで制した。
「第六天の魔王は、法華経の行者が信心に励み、仏に成りそうなのを見て、驚いて、『ああ、とんでもないことだ』と慨嘆する。
この法華経の行者が、この国にいるならば、次々と人を導き、魔王の領土であるこの世界を奪い取って、浄土にしていってしまうからだ。
そこで、六道の世界から、魔王の一切の眷属を招集して命令を下す。『おのおのの能力にしたがって、法華経の行者を悩ましてみよ。
それでだめならば、彼の弟子や旦那や国土の人びとの心のなかに入りこみ、あるいは諫め、あるいは脅してみよ』というのだ。
障魔というものが、いかなる姿を現じてくるか測りがたいわけだよ。御書の仰せに嘘はない。
魔が狙わんとするところは、大聖人の大精神を断絶せしめ、広宣流布を阻止することにある。
そのためには、手段を選ばないということだ。これから先、どんな姿を現じてくるかわからない。
御書の照らして真実を見極めていけば、すべては明らかだが、いささかなりとも信心の眼が曇れば、魔に翻弄されていくことになるだろう」