(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 9
そのなかで、学会は、日蓮大聖人の御精神に違わず、「生きた宗教」として、軍部の政治圧力に抗して敢然と戦った。
あの大弾圧を呼び起こしたのも、これまた当然の帰結である。
戸田は、理路整然として、法難の縮図ともいうべき原理を語っていった。
伸一は、もつれた糸が解きほぐされるような思いに駆られながら、戸田の話に聴き入っていた。
時計の針は、午後十一時を回っていた。伸一は、戸田の体が心配でならなかった。四月三十日に、突然、戸田が倒れてから、まだ一カ月余りしかたっていない。
伸一は、少しでも早く、戸田に休んでもらわなければならないとの思いが強かった。しかし、戸田は、どうしても今夜のうちに、これだけは話しておかなければならないかのように、なおも語り続けた。
「伸一君、しかも、今、学会は、仏法の慈悲の精神を基調とした、人間のため、民衆のための社会建設をめざし、文化、教育、政治など、あらゆる分野の改革に乗り出したところだ。
その現実社会に展開される『生きた宗教』の台頭を、権力が見逃すわけがないではないか。
戦後になって、権力は分散してきたともいえる。そして、炭労というものも、今は炭労労働者を組織した、一つの権力の様相を呈している。
だが、その上に、国家の政治権力がある。本当に怖いのは、そっちの方だよ。油断はできないぞ」
「はい!」
伸一は、真剣な表情で頷いた。戸田も、大きく頷きながら、うまそうに卓上の水を飲み干した。