#34 世間ガイドブック その3(新入社員向け)~ OJT 職場実習 | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

  一通りの新人研修が済むと、職場への配属が決まり、いよいよOJT 職場実習が始まる。

  大抵の場合、このOJTこそが、君達新入社員の本当のスタートだ。

  同期生、先輩社員、直属上司、所属長、・・・ その人間関係が数年続くことになる。下手をすると、うまく行くと数十年続くかも知れない。だから、このOJT期間をあだや疎かに思ってはいけない。

 

 

             

 

  この期間中に遅刻なんかした日には、「〇✕の奴ァすげえぞ。入社式の日に遅刻して、社長のスピーチ中に堂々と入って来たんだぜ~~!」などと、ある事ない事、尾ひれ背びれを付けて、後々まで語り草にされる恐れがある。

  レジェンド扱いされるのはまんざら悪い事ばかりでもないが、一旦「時間にルーズ」という悪評が立つと、「あいつは酒癖が悪い」などという悪口などよりも遥かに深刻な実害を長期にわたって被る恐れがあるので、せめてOJT期間中は決して遅刻はしてはならない。

 

 

            

        

  余談ながら、昔、私の同期生の一人がOJT初日に水玉模様のネクタイをしてきたというので、長い間からかわれていた記憶がある。「水玉模様の何が悪いんだ!」とその男は憤慨していたが、確かに今思い返してみても、水玉模様の何が悪いのかよくわからない。きっとネクタイ柄の問題ではなく、その性格がからかわれやすいというか、皆に愛される気質だったということなのだろう。

 

 

 OJTの大切さは、そこで初めて会社の一つの素顔を目撃できるということだ。

 「××で社会に貢献」 だの 「人と環境にやさしい○○」だの、人事部が並べる空疎なコピーライティングではない、まさしく生の人間の集団がどうやって金を稼いでいるか、その現場を知ることができる。君が頭デッカチの学生であっても、毎日地球 globe を回転させているのは、政治でも宗教でもなく、経済活動、つまり金だということを嫌でも実感させてくれる最初の機会だ。

  もちろん、# 25 世間ガイドブック その1(学生向け) ~ 入社式でも書いた通り、君達を教える役割を負わされた先輩社員や上司の本音は、「ああ、面倒くせ・・・」 だろう。彼らにも本来の仕事があるので、時間が経つに従って、教え方も段々雑になり、話し方もぞんざいになり、時には感情的な𠮟り方をするかも知れない。

  君達の方も、お客様扱いから徐々に格下げされて、子ども扱いやパシリ扱いを受け続けるうちに、(ああ、こんな会社に入るんじゃなかった)とか、(こんな部署はいやだ。明日にでも配転希望を出そう)とか、どんどん屈託とストレスが溜まってくるだろう。

  そういう時のためのアドバイスが一つある。

  「嵐の夜に、重要な決断はするな」だ。

 否定的な感情が心に渦巻いている時にする決心は、しばしば目的を見誤る。

 (あいつらを見返してやる!) とか、(俺は、私は、もっと優秀な人材なんだ。こんな屈辱を受ける理由はない!)とか、視野狭窄の果ての一種の「エゴ(自己)劇場」に陥ってしまう。

 配転希望であれ転職であれ、それは本来、自身のベターな人生を築くための決断である筈であり、「あいつら」は関係ないし、君が「優秀な人材」かどうかは、会社や世間が決める事柄だ。(配転について付言するなら、その種の経過ではまず十中八九通らない)。

 

                

 

 OJTで疲れ果てても、とにかくその期間が終了するまで何の決断もすべきではない。

 終了後の休日の朝、コーヒーでもすすりながら、心の嵐が止んでいるか見てみればいい。

 嵐が止んでいて、(終わってみれば、まあ、そんなに悪い会社でもなさそうな・・・)という気がしてきたら、真剣に配転希望なり転職を考えること。

 その時こそが決断の時だ。