#3 娘の就活、私の就活(その1) | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

 娘が大学4年の春に内内定をもらってとっとと就職先を決めた時、私は正直ひっくり返るほど驚いた。もちろん嬉しかったが、近年の就職活動に関する状況や経過に思いっきし無知だったので、頭の中を色々な疑問が渦巻いた。
 こんなに早く?まだ卒業まで1年もあるのに?そもそも「内々定」って何だ?
 既に子供を世に送り出した親御さん達ならとっくに御存知だろうが、私はフムフムともっともらしい顔つきで娘の説明を聞き、後でこっそりネットで調べてみた。
最も役に立ったのが「Fラン大学就職チャンネル」(https://www.youtube.com/channel/UCqRV_ZIQhVKfxG1_WkNiRbg)というユーチューブのコンテンツで、以前大学のキャリアセンターに勤務していた人が立ち上げたものらしい。因みに、その洒脱なシニカルセンスや、時折覗き見える思想フェーズへの逸脱(あるいは止揚と言うべきか ^_^; )など、近年これほど面白いと感じたコンテンツは他にない。

                      

 

 このサイトから、私は「ガクチカ」という用語というか隠語を学んだ。「学生時代に力を入れたこと」、学生が使う就活用語だと書いてある。大抵の面接でこれを聞かれるのだそうで、どう答えれば良いかの想定問答集まで沢山ネットに載っている。
 その問答集を幾つか読み、私は思わず声を出して笑った。
 これは馴れ合いとまでは行かなくても、会社と学生が取り交わす一種の儀式ではないか?

 教会で神父に「汝、健やかなる時も病める時も---- 」と問われて「誓います」と応じるアレの類なのではないか?
 この実際の意味を翻訳すると、大体次のようなことになるだろう。


 会社 「あなたが学生時代に最も力を入れたことは何ですか?(翻訳:君なあ、ウチに入

     ったら、上司に命じられたことは何でもハイハイと言うこと聞くよね?チームワーク乱

     したりしないよね?なんたって『和を以て貴しとなす』の国なんだからさ。

     ちっとくらい仕事がきつくなったからって、労基局にチクったりしないよね?それと

     か、労組に入ってハネッカエリの活動分子になったりしないよね?まあウチのはバ

     リバリの御用組合だから、やっても無駄だけどさ)」
 学生 「はい、私はテニス部のキャプテンとしてチームワークの大切さや・・・(翻訳:い

     や、俺、そういうめんどいの興味ないっす。まあそこそこの給料もらって、そこそこ

     に働いて、あと、きちんと有給消化できて、そんでそこそこの生活できれば満足っす。

     ところで何すか?その御用組合っての)」

 

 私は笑いながらこれを読み終えた後、日本企業の株は当分買うまいと思った。

 とは言え、面接を受ける学生の全てが「そこそこ族」ではないらしく、悪名高い某掲示板では内定をもらった学生達が本音を漏らしている。
「ああ、これで来年4月から40年の懲役刑だ」
 英語で言うところの“Welcome to the club” 的状況で、モラトリアム世代の先駆けみたいな学生だった私は、共感を込めて大きく頷いた。


                                     (続く)