大手銀行に勤める41歳の安達は、無差別大量殺傷事件の
ニュースに衝撃を受ける。40人近くを襲ってその場で焼
身自殺した男が、小学校時代の同級生だったのだ。あの頃、
俺はあいつに取り返しのつかない過ちを犯した。この事件
は、俺の「罪」なのかー。懊悩する安達は、凶行の原点を
求めて犯人の人生を辿っていく。彼の壮絶な怒りと絶望を
知った安達が、最後に見た景色とは。誰の心にも兆す”悪”
に鋭く切り込んだ、傑作長編ミステリ! ー裏表紙よりー
無差別大量殺傷事件が起こると動機は何かということが問
題になります。
これまで実際あった事件だと、大体犯人は自分の人生があ
まり上手くいっていなくてそれで社会に恨みを持つように
なり無差別に人を攻撃するというのがパターンのような気
がします。
今回のこの犯人の斎木もそのパターンだと見られていまし
た。しかし報道を見た主人公の安達は自分が小学生時代に
斎木のいじめのきっかけを作ったことが原因ではないかと
考え始めます。
私も高3の時にいじめに遭った経験があるのですが、それ
以降やはり人間関係の面で苦労しました。特に3~4年ぐ
らいはそれがひどく今でもしんどかったと思います。
安達が斎木の過去をいろいろ調べていくうちに斎木はいじ
め以降不登校になり、就職氷河期も重なって職を転々とし
ていたことが明らかになります。
安達は斎木がこの事件を起こしたのはやはり自分が蒔いた
種なんだと思い込みます。
しかし、いろいろ調べていくうちに斎木の人生にもいろい
ろあり‥というように話は終息に向かっていきます。
この小説には被害者家族の加害者家族への向き合い方を考
えさせられるところも出てきます。
犯人は死んでいるわけですから、被害者家族は自分たちの
怒りや悲しみ、苦しみをどこに向ければいいのか。
せめて加害者の親に賠償を求めるしかないのかということ
が問いかけられています。
未成年者ならまだしも成人してからも親としての責任が付
きまとうのかというのは今回考えさせられたことの1つで
した。
斎木の人生の幕は下りましたが、斎木にもホッとする瞬間、
癒しがあったことなどがせめてもの救いでした。
いろいろ考えさせられる作品でした。★★★