『歪んだ波紋』 | てこの気まぐれ雑記帳

てこの気まぐれ雑記帳

グータラ婆が気ままに、日々の出来事や思ったこと、感じたことを、適当に書き綴っています。なんでも有りの備忘録的雑記帳です。

2020年12月31日、大晦日とあって、世間じゃ皆さん大忙しく働いているであろう日に、『歪んだ波紋』(塩田武士。講談社)読了本

「誤報」にまつわる5つの物語。新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディア―昭和が終わり、平成も終わる。気づけば私たちは、リアルもフェイクも混じった膨大な情報に囲まれていた。その混沌につけ込み、真実を歪ませて「革命」を企む“わるいやつら”が、この国で蠢いている。松本清張は「戦争」を背負って昭和を描いた。塩田武士は「情報」を背負い、平成と未来を描く。全日本人必読。背筋も凍る世界が見えてくる。(単行本帯より)

 

 

*私の読書録は備忘録としての感想文。完璧ネタバレですm(__)m*

 

 

 

「誤報」をメインテーマとした5本の短編から成る――

◎黒い依頼

ひき逃げ事件が起きた。被害者の妻は実は加害者なのかも……?

「近畿新報」の遊軍記者・沢村政彦は、社会部デスク・中島有一郎からの依頼で追跡調査を始めたが、調べていくうちに、ある疑いを抱いた。中島と敏腕記者・桐野弘は常習的に虚報を作り出していたことが判明した。

「誤報」と「虚報」‥「誤報」には訂正という自浄作用が働くが、「虚報」は明確な悪意が介在する。

しかし、フェイクニュース作成の指南サイトなんてものが本当にあるとしたら、怖いよなぁ。

 

◎共犯者

「大日新聞」で同僚だった記者の垣内が自殺した。彼の元妻から遺品整理を頼まれた相賀正和は、30年前に一緒に取材したサラ金問題の資料が大量に残されていたこと、さらに消費者金融から多額の借金をしていたことに疑問に感じ、悠々自適の生活を一端休止、再調査に乗り出した。

過酷な取り立てで一家離散や自殺に追い込まれる人たちが出た「サラ金地獄」。33年前の誤報が1人の人生を狂わせ、訂正記事を載せなかった記者は死ぬまで罪悪感に苦しむことになる。「誤報」に「時効」はないのだ。

1983年の「サラ金規制法」施行で地獄の沙汰は減ったようだけど、未だに高利貸しは存在するみたいだし、カードローンなど新たな借金先も出現しているからなぁ。

 

◎ゼロの影

娘が、保育園で仲良くしている男児の父親が、女子トイレ盗撮犯として捕まった。しかし、警察には記録がないと言われ、新聞社では逮捕の元原稿があるのに記事が差し替えられた! 娘を心配した元「大日新聞」記者だった野村美沙は、伝手を頼って調べ始めた。

盗撮男の父は有名な弁護士なのに、マスコミは飛びつくどころか記事にもしなかったし、警察もなかったことにした……なぜ?  真相を知った美沙もまた、別の理由で口を閉ざした。

警察とマスコミ各社の癒着‥検察庁トップと賭けマージャンしていた記者とか、いたっけね^^;

 

◎Dの微笑

「近畿新報上岡総局」でデスクを務めている吾妻裕樹は、入社当時の社会部デスクだった安田に、日本に潜伏中と噂のある大物フィクサー・安大成の居所調査を依頼された。最初に安が日本にいるとの情報を流したバラエティ番組「よろずやジャーナル」を調べるうちに、ヤラセ・演出・でっち上げが常態化しており、安の特集も捏造だったと分かった。

新型コロナの影響もあるのかもしれないが、今日本のテレビ局はバラエティ番組花盛りで、どの局見てもバラエティばかり。どの情報が、誰の話が本物なのか、見る方の知識と冷静さが求められるようになったのかも。

 

◎歪んだ波紋

元「大日新聞」記者で、現在はウェブニュース「ファクト・ジャーナル」編集長・三反園邦夫。可能な限り安価で硬軟のバランスが取れた分析力の高いニュースサイトが理想だけど、実際には有名人の不倫などSNS受けする記事を流して、どれだけPV数を取れるかが勝負の世界。そんな「アラ探しばっかり」にうんざりしていた彼は、「安大成にインタビューするので、ファクト・ジャーナルで配信してもらえないか」の話に飛びついた。

 

……それぞれ独立した物語のようだった第1章からの話が、最終章で一気に繋がってくる展開の見事さに感心する。

フェイクニュースという言葉を知ったのは、トランプ前米国大統領のTwitterがらみだったが、なぜそんなことをするのかが、未だに解らない。

レガシーメディア(マスコミ)の信用を落とすために、故意に誤報・虚報を流し、記事を捏造する。対象となった人の人生を踏みにじっておいて責任をとらない。その意図するところが理解できない。

人に役立つ正しいニュースより、人の役に立つより自分の役に立つ面白いニュースが求められ、日本で最大級の影響力を誇るウェブニュース媒体「ヤフーニュース」の先にいる大衆が望む記事を量産してPVの多さを競う‥そんな危ういウェブニュースに引き摺られていっているのではないかと、昨今の自分を振り返ってみた。

悪意があってもなくても、大量に流される情報に晒されている現代。なんだか恐ろしい時代に入っていくようで、自分の立ち位置をしっかり判断する心の強さが必要な世の中になったのかもと思う。

 

しおた・たけし=1979年4月兵庫県尼崎市生まれ。関西学院大学社会学部卒後、神戸新聞社入社。『盤上のアルファ』(21.1.30記)で、10年第5回「小説現代長編新人賞」、11年第23回「将棋ペンクラブ大賞(文芸部)」受賞。12年神戸新聞社を退社し専業作家に。『罪の声』(20.8.24記)が16年第7回「山田風太郎賞」受賞、16年版「週刊文春ミステリーベスト10」第1位。『歪んだ波紋』で18年第40回「吉川英治文学賞新人賞」受賞。