病院での医学的な正しさより、患者さんの思いを優先させるのが在宅医療にて、

 

病院で患者さんの思いや生活より、治療が優先される一方で、

在宅医療は「患者さんの生活の場」であり、

そこで医師が頭ごなしに、「医者の言うことを聞け」という態度で患者さんに接するのではなく、患者さんがその人らしい楽しみをもちながら、長く治療・療養を続けていけるように支援している、という実態をお話ししました。

 

 

今回は、具体的にどういう支援を行っているか、

例を出してお話していこうと思います。

 

 

F さんは、80 代後半の女性です。

60 代半ばで糖尿病を発症して以来、食事療法や運動、生活指導を並行しながら、血糖値を下げる薬での治療を続けてきています。

 

5 年前に夫が亡くなり、1 人暮らしになったため、2 年前からは有料老人ホームに入居しています。

現在は、杖や手すりなどの補助があれば自分の足で歩くことができます。

息子さんや孫たちが時々面会に来てくれて、話をしたり、一緒に車で外出し食事をしたりするのが、F さんの生活の楽しみになっています。

 

有料老人ホームに入居したあと、それまでに通院していたところを在宅医療に変更し、

当院が定期訪問診療で入ることになりました。

 

F さんは糖尿病歴が長く、心臓も弱っていますが、

在宅医療の薬物療法や食事療法によって、糖尿病は少しずつ改善しています。

 

糖尿病診断の指標の 1 つにヘモグ ロビン A 1 c という値がありるのですが、

在宅開始当初 8 くらいあっ た数値が、6 . 6 くらいまで低下してきたところです。在宅開始当初 8 くらいあっ た数値が、6 . 6 くらいまで低下してきたところです。

 

 

そんなある日、F さんの息子さんから、当クリニックに連絡がありました。

F さんが在宅医療の担当医を替えてほしいと希望している、とのことでした。

 

実は、Fさんの健康状態が安定していたこともあり、最近、 担当医の担当を交代したばかりでした。

 

F さんの住まいに伺ってあらためて話を聞いてみると、

新しい担当医の食事・生活指導が細かく、あまり外食などをしないようにと 注意され、きゅうくつに感じている

とのこと。

 

そこで、F さんの担当医と、あらためて治療方針について話し合いをしました。

 

新しい担当医は、もともと病院勤務をしていた糖尿病の医師です。

 

病院での治療方針は、糖尿病の指標のヘモグロビン A 1 c を 6 . 0 未満 にすることが、治療目標となります。

そのため、数値が下がっているとはいえ、まだ 6 . 5 ~ 6 . 6 くらいの F さんは、しっかりした食事制限が必要だと考えたようです。

 

また、F さんが時々息子さんと外食へ行き、うなぎやステーキと いった高カロリーの食事をするのを快く思わなかったようで、「そういうのは良くないですね」と注意をしたとのことです。

 

しかし、在宅医療は病院のように病気を「治す」ことだけが目的ではありません。

F さんが自宅(施設)で安定して生活ができることが最も大切です。

 

 

 

糖尿病の血糖コントロールにおいて、

最新の研究では、高齢者ではあまり厳格にヘモグロビン A 1 c を下げなくても、好きなものをもりもり食べている人のほうが長命、というデータもあります。 

 

ヘモグロビン A 1 c は高齢者は年齢の 10 分の 1、つまり 70 代なら 7、 80 代なら 8 を目安にするといいとされています。

たまの外食や記念日などにご馳走を食べたのであれば、その後、しばらくは質素な食事を心掛ける、というのでもOK です。

   

 

 

F さんの生活のなかでは、息子さんと月 1 回程度、外食に行くことが大きな楽しみであり、生活の張り合いになっています。

それを厳しく制限されてしまうと、たとえ血糖値の指標の数値が下がったとしても、F さんの心の健康という点では、マイナスになる可能性も考えられます。

 

そのことを F さんの担当医にも伝えて話し合い、 息子さんとの外食を認める方針に変更しました。

月に 1 回くらいの外食では、好きなものを食べて贅沢をしてもいい。

その代わりに、薬を忘れずにきちんと飲み、自宅で食べるときはカロリーや糖質を抑えた食事を選んでもらう。

 

そのように F さん にとって実行しやすい生活指導を行うようにしたところ、F さんや 息子さんも納得してくださり、現在も担当医を替えることなく、療養生活を続けています。

 

 

 

高齢期になると、糖尿病や高血圧、肥満といった生活習慣病を抱える人が多くなりますが、

こうした慢性疾患は、長期間にわたって根気よく食事制限や運動療法などの生活改善を続けていかなければなりません。

 

しかし、あまり厳しくし過ぎると息が詰まり、結局は続かなくなります。

 

 

 

生活改善の継続が重要な局面において、

患者さんが療養生活のなかで何を大切にしたいかは、人によってそれぞれ違います。

 

グルメで、子どもや孫たちとの外食が大切という人もいれば、

食事は質素でもいいけれどタバコはやめたくないという人もいます。

 

日常生活の介護でも、

ヘルパーや看護師にきめ細かく支援をしてほしい人もいれば、

家事支援などは最小限でいいので、1 人の時間を大切にしたい人もいます。

 

 

 

患者さんの状況に応じて、時々息抜きもしながら、長く続けられる生活指導を考え提案をしていくのが、在宅医療ならではの支援です。

 

それぞれの人の価値観を尊重しながら、

その人が自宅で長く生活を続けるために必要な治療・支援は何なのかという視点で、

医療・ 介護の方針を検討していくことが重要なのです。

 

 

 

 

 

病院での医学的な正しさより、患者さんの思いを優先させるのが在宅医療

 

 

 

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核家族化が進んでいる昨今では、ご家族の死を間近で見る経験はほとんどありません。

大切な家族が死の間際にいるという重大なときに、冷静でいられる人はまずいないでしょう。

 

 

薬が効かなくなったらどうすればいいか、 

苦しそうに見えるがこれでいいのかと、

震えるような思いで過ごされてているはずです。 

 

 

私たちは、在宅看取りをするご家族を支援するため、

看取り期には毎日訪問するのを原則としています。

 

最後の 1 カ月ともなれば、 場合によっては 1 日 2 回、訪問が 1 カ月で数十回になることもあります。

 

 

終末期には特に医療行為はなく、本人・ご家族のお話を聞くだけということも少なくありません。

 

が、医師が話を聞き、そばにいてくれるだけでも、心の痛みは和らぐものです。

 

そうして不安に寄り添い、その時々に最適なケアを探りながら、臨終までの道のりをサポー トするのが私たちのやり方です。

 

 

医師や看護師にとって、度々訪問するのは確かに大変ではありますが、

そうすることで在宅看取りをされたご家族と“一緒に最後ま で戦った戦友”のような感情が生まれます。

 

これは医療従事者にとっ ても、確かなやりがいとなっています。

 

 

 

 

 

「在宅医療」他人事ではございません。

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急な病気や事故で命の危機が迫ったとき、

約70%もの人は受けたい医療やケアを自分で決めたり、人に希望を伝えたりすることができない状態になるといわれています。

 

その結果、命の終わり際に望まない延命治療を施されるなど、不幸な最期を迎える人も少なくないのが現実です。

 

したがって、

万が一、自分の意思が伝えられない状態になっても、自らが希望する医療やケアを受けるため、

日頃から自分がどんな医療・ケアを受けたいかを考え、

身近な人と話し合い、共有しておくことは非常に大切です。

 

 

在宅医療や介護の現場で、ここ数年で注目が高まっているキーワー ドに「ACP」があります。

ACP とは、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)の略です。

 

2018 年に、厚生労働省がこの ACP の愛称を募集し、「人生会議」 に決定しました。

 

 

「いよいよ」となったら、どのような最期を迎えたいのか。
 
 
痛いのは嫌だ。
胃ろうや人工呼吸器はつけてほしくない。
いや、私はできる限りの延命治療をしてほしい。

 

 

こうしたことは、早いうちに身近な人にアウトプットしておこう。

 

 

それこそが、ACPのコンセプトです。

 

 

 

ACP 愛称選定委員会の委員の 1 人でもあるオレンジホームケアクリニック理事長の紅谷浩之医師は、

 

「延命治療をするか否か、死ぬ場所はどこかなどを決めなくてもいい。

あなたのことを知っているみんなで話しながら、迷いながら進んでいくこと、

結論を話すのではなく過程が大切です。

とにかくたくさん話をすることが大切だと思います。」

 

と説明しています。

 

 

身近な、大切な人たちと「もしものときにはどうしたいか」「人生 の終わりまでの時間を、どこでどう過ごしたいか」といったことを 話し合う、

ゆえに「人生会議」

 

家族や親しい友人、在宅医療チームのメンバーたち等々、

 

折に触れ、たくさん話をしてほしいと思います。

 

 

患者さんとの、具体的なやりとりを書いた記事です。

よろしければぜひこちらもお読みください。

→ 患者さん・家族との「人生会議」アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

 

 

 

 

 

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