60 代の終わり頃から、認知症の症状が現れるようになったBさん。

 

最初の頃は、物忘れのような症状が中心でしたが、次第に「人に物やお金を盗られた」「近所の人が勝手に家に入り、持っていった」などの被害妄想も強くなっていき、

そのうちに、自宅の周りで偶然近所の人を見かけると、「泥棒しただろう、警察に電話する」といった暴言をぶつけるようになってしまいました。

 

ご家族が、Bさんに認知症の病院を受診しようと促しても、「自分は病気ではない」「病院は何をされるかわからないから嫌だ」と強い拒否感を示します。

介護保険サービスも本人が嫌がって、まったく利用していないとのこと。

ほとほと困り果てたご家族から、当クリニックに相談がありました。

 

 

Bさんをクリニックに連れてきてもらうのは無理だと判断し、 まず当クリニックの医療連携室のスタッフが、Bさん宅を訪問することにしました。

スタッフが訪れると、B さんは「なぜ来たのか、 帰れ」と案の定、強い拒否感を示します。

数回は、訪問しても会うことすらできない状態が続きました。

 

しかし、根気よく訪問を繰り返すうちに B さんも少しずつ態度が軟化。

次第に自宅に上がり、お茶を飲んだり会話をしたりができるようになりました。

 

そこで連携室のスタッフは、治療や介護の話をするのではなく、 Bさんの趣味の話にじっくりと耳を傾けることに徹しました。

Bさんはとても手先の器用な方で、ビーズできれいなブローチや小物を作るのが得意なのです。

作品を見せてもらったり、創作の話を聴いたりするなかで、B さんとの心理的な距離を縮めていきました。

 

Bさんとの信頼関係ができたところで、「年齢的にも、健康面のチェックを受けるといい」と提案。

Bさんご本人の了解をもらって、よう やく医師が定期訪問診療に入れるようになったのです。

 

Bさんのイライラや夜間の興奮といった症状に いては、薬を処方することにしました。

同時にスタッフが付き添ってデイサービスの見学に行き、Bさんの好きな手芸ができる施設を見つけ、週2回利用することにしました。

これによって生活にメリハリがつき、B さんの不安感やもの盗られ妄想も徐々に落ちついてきています。

デイサービスの利用で、毎日昼夜を問わず、B さんを見守っていたご家族の負担も少し軽減され、表情にも余裕が出てきています。

ホームヘルパーが 1 日に1 回入り、調理などの家事の手伝いをしており、それも非常に助かると喜んでおられます。

 

現在もBさんは在宅療養を続けています。

ただ、医師の訪問にはいまだに抵抗を示すため、月1回の定期訪問では、診療時間より少し前に医療連携室のスタッフがお宅へ出向き、B さんから手芸を教えてもらう時間という設定にしています。

手芸教室の合間に医師も顔を出すというかたちにすると、 親しいスタッフがいるためか、B さんも安心して診療を受けられるようです。

 

 

 

このように、医師と看護師、連携室のスタッフで綿密に打ち合わせをしながら、 訪問診療と生活支援を続けています。

 

 

高齢者が要介護になる要因の第 1 位が認知症です。認知症を理由に、在宅医療を始めるケースは増えています。

B さんの事例のように、大きな持病などがなく身体的には健康という人では、本人は認知症だと自覚できないことも多く、通院や治療、介護サービスに強い拒否感示すこともあります。

 

そのような場合、ぜひ在宅医療を検討することをおすすめします。

在宅であれば、患者さんの慣れた自宅へ医師や看護師、スタッフが行って話をしますから、病院に行くのに比べて患者さんのストレスを軽減できます。

 

認知症の人の在宅医療は、強い興奮などは薬で症状を緩和することもありますが、基本的には生活支援が中心になります。

困った症状にどう対応すればいいかを看護師・介護スタッフがアドバイスすることもできますし、家事が困難になっていればヘルパーが入ってサポートします。

 

またデイサービスやショートステイなどの介護保険サービスを利用し、介護をする家族が本人と離れる時間をもつことも大切です。

 

 

 

家族だけで抱えていて疲労困憊してしまう前に、ぜひご相談ください。

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