カラッポのマネキン -4ページ目

カラッポのマネキン

ウソと本当のミックスジュース。おいしくどうぞ。

 本当に文章がノル時は、私が書いてる気がしない。人物が勝手に動きだして、私も知らないような答えを連れてくる。私はまたあの感覚に浸りたい。何時間書いても疲れない、物語のキャラクターたちに取りつかれた瞬間。あとで推敲すると、なんじゃこりゃ?てなときも多いけど、多少の直しでいけることが多い。
 おもしろい、ってなんだろうと毎日考えてる。わたしはおもしろい作品とは、心が動くことだと思ってる。
 悲しい、うれしい、笑える、泣ける。
 何か動いたら、それがおもしろい作品だ。
 でもその作品が売れて、利益を生むかどうかは別の話。
 本当に面白いものは売れないよ、なんて戯言。私は一番好きな話は、渡る世間は鬼ばかり、だ。あれほど悲喜こもごもな作品はない。突然いなくなるキャラクターも多数。まあその事情はさておき。
 私はあんな作品を書く人になりたい。
 ちょっと良い話とかには興味がない。もっとエグくなりたい。良い意味でも悪い意味でも。
 今まで職人の世界でノンビリくらしていた私に、今という状況は絶好のチャンスだと思ってる。母親という世界。
 自分が消える世界。面白い。

 こういうとき、どうしたら良いのかなと思う。
 ずっと海が見える場所に住んでいた。気がついたら砂浜で遊び、幼稚園で遠足にいったのも海沿いの水族館。ちょっと遠回りして帰った小学校の帰り道。岩場で遊んだのも海の近く。初めて好きな人ができて、遠くからついていったのも海沿いの道。告白したのも海で、はじめてのキスは…私の部屋だったか。デートの半分は海に出て、わかれ話をしたのは海。私の全てに海があって、そこで悩んだり笑ったりしてたから、海がない場所に来た今、どこで泣けばよいか判らなくて水族館に来てしまった。
 カップルが楽しそうにイルカのショーを見てる。ちがう、ここじゃないと立ち上がる。
 海がないと考えがまとまらない。
 そうか、電車で数時間。実家に帰ればいいだけだ。ひさしぶりに帰ろう。きっとそれで良い。
「貸してあげなさい、二人で遊べばいいじゃない」
 そういう私に息子は、キッと顔をあげて声をあげた。やだ!僕のトミカビル!
「そんなこと言わなくてもいいじゃん…」
 言いながら、頭の中にぼんやり景色が浮かんだ。
 私が子供だったとき。母親に貸してあげなさいといわれて、ぜったいヤダ!とリカちゃん人形を抱きしめる私。
 すごくイヤだった感情が溢れて、ため息をついた。
「まあ、イヤだなわ。うん、娘っこ、諦めなさい」
 ふぎゃあああんと娘が泣いた。
 正直これが面倒なだけなのだ。娘が泣くのが。仲裁するのが。だから「仲良くしなさい」という。私が面倒じゃないように。全く子供の考えなどどーでもいい、私が楽できる、一般常識を置いてる。
 私のオモチャなのに、なんで貸さなきゃいけないの? ぜったいヤダ。
 そう思った感情を明確に覚えてる。それによって何か歪んだ覚えがないのは、結局貸さなかったからだと思う。
 私は自分が楽したくて、家事したくて、二人で仲良くしてほしいと思ってる。小さな子供が二人で仲良く遊ぶなんて無理に決まってる。
「よし。息子くんには机の上を開放します。これから邪魔されたくないときは、ここに全部上げな」
 いつもは畳んである大きなテーブルを広げた。
 わああい!息子は嬉しそうに机の上にオモチャを広げ始めた。
「ねえママ、ここ息子くんの場所だね」
 そうそう。私は机の下に娘と転がった。まあ結局楽したいんですけど。
 二児の母なんてそんなもんだ。
 どうして忘れていたのだろう、私も昔は子供だった。
 私がイヤだったことから守ろう。そして君を見よう。