駅まで行く割には細い道を通るなぁと

思いながらもに着いていく。

軽自動車がギリギリ入ってこられるかな?という位の

昔からあるような細い道だった。


なんとなく話が途切れた。


「…忙しそうなのに、今日は時間をとってくれて

嬉しかったです。」


歩きながら、言葉を選んで話した。


彼は私の方を向いて微笑む。


そのままスタスタと進んでいくので、

駅または講演会場に急いでいるのかな?と思って

一緒に歩いていくと、

彼は和風居酒屋の玄関前スペースに入り込んだ。


縦向きのスリットが並んだ木製フェンスで囲まれた

1畳程度スペースで、完全ではないものの、

道路からはなんとなく目隠しされている。


彼は、そこでぴたっと止まって、と向かい合った。


「ん?どうしたんですか?」


彼は、左右をキョロキョロ確認した上で、

顔を近づけてきた。


「え?なに?」


想定外の行動に、

も思わずキョロキョロしてしまった。


遠くに人が歩いている。


何をしたいのか分からないが、

とにかくこの場を立ち去りたいと思った。


でも、彼の勢いと熱気が止まらない雰囲気を感じた。


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彼が私に、講演会用のスライドのチェックを
頼んでくる事なんて初めてだ。

嬉しくなって、カフェのテラス席で
1枚1枚見させてもらう。
こういう時、私はけっこう真剣なモードで
チェックしてしまう。

(以前、彼が本を出した時にも、
客観的な目線で読んでしまった。
そして、すごいなと思いながらも
誤字脱字を3箇所見つけてしまい
それをきちんと指摘してあげることが
自分の義務のような気分になった。
きっと職業病なのだろう)

彼が準備したスライドの内容が

いまいちでありませんように、と

思いながら見始めた。

この感覚は、彼の本の時や

ラジオ出演の時と同じだ。

厳密には、今回は、

“幻滅しませんように…”と思いながら見た。




彼が年下で、私の方がキャリアが長いということが

こういう時に変な形で首をもたげる。


彼は彼で、私が適当に

おだてたりお世辞を言ったりしたら

すぐに見抜いてしまうだろう。


私がスライドを確認していた数分間の間、

沈黙が流れた。


結果的に、幻滅どころか、

量も質も、予想以上に良くて、

ホッとするというゴールを越えて

“やっぱり彼はすごい!”と思ってしまう内容だった。


当然ながら真面目な内容が書かれている

スライドだったのだが、

最先端の海外の様子から、

少し遅れて追随する日本の話に切り替わる時に

昔ながらの承認システムの象徴である

ハンコの画像が大きく載っていて笑った。


「ここで笑いをとるんですね。」


「そう、伝わるかな」


「前後がとても固い内容なので、ひと息ついてもらうためにもいいですね。ギャップがすごいから、

絶対笑いがとれますよ!


真面目なプレゼンで笑いを取るって1番難しいですよね。海外の偉い人なんかは自然にやってるけど。

笑いを取れると、オーディエンスの気持ちを

掴める気がします」


「よかった。これで良いかな?」


「すっごく良いと思います!」


「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいです。

やっとひと息つけます。今回は子どものお世話などがあって、思ったように時間を取れなくて準備が

ぎりぎりまでかかっちゃって。」


そこから少し、お茶を飲みながら雑談をした。

コロナ真っ只中で、人間の住み方、集まり方、

移動の仕方が変わるよね、という文脈で、

建築家の本、アジア方面、物流関係の話をした。

偶然にも、最近開催された

人間の歴史と建築の歴史をテーマにした

大規模な展示会に、

2人とも行っていたことが分かって、

また話が盛り上がった。

そして、ユニークな思想に基づく建築論を

展開した、一般にはあまり知られていない

建築家の本を薦められた。


とても面白そうだったので、

書籍のオンライン販売サイトを開いて一緒に見た。


それは、何十年も前に出版された古い本だったが、

新型コロナ感染症が広がった世界を

経験した現代の視点で読むと

とても斬新で魅力的な本に思えた。


ラブホテルに行くのとは別の、

爽やかで楽しい時間だった。


彼とは本当に趣味が合うので、

もし私たちが健全な友人関係だったら

きっと一生の付き合いになっただろう。

そんなことを確信してしまうひとときになった。


(違うタイミングで、彼からも

“僕たちは一生こうなんだよ”と言われたことがある。

彼が言っていたのは性的な意味合いだったのだろうが)

↓↓


「ごめん、今日はそろそろ行かなきゃ」

「はい」


一緒にカフェを出ると、

彼は大通りに出る最短ルートとは逆の

細い道を歩き出した。


私は、軽く散歩をしながら会場に行くのかな?と

思ってついて行った。


「コロナとかビザの関係で、

今は海外に行かないことになって

本当に良かったです。ちょっと心配だったから。」


「そうだね、少しのタイミングで、行かないことになって。」


「今の状況だと、ジョーカーっていう映画みたいなことが現実に起きてるみたいに見えます。」


「そうだね、僕、ジョーカーとパラサイトと万引き家族全部観ちゃった。」


「あ、私もジョーカーと万引き家族見ました!」


(ジョーカーの映画は、どういう流れだったかが忘れたが、珍しくダンナと映画館で観たのだった)


「今って、世界じゅうでああいう映画が

作られて受け入れられるような状況なんだろうね。


「ですね。パラサイトも観てみます。」


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コロナ自粛中期間が落ち着いて
久しぶりに会ったあと、
わたしたちは味を占めて頻繁に会ってしまった。

初夏から夏になろうとしていたある日、
また彼から連絡が来た。

「今週の水曜日のお昼に会わない?

◯◯で講演会があって、そこで話してくださいって頼まれてるんだ。だから、その前に会えたらいいな。」


「はい、水曜日、だいじょうぶです。」


「前にもこんなことがあったよね」

「確かに、講演会とか会議の前に

会うこと多いですね私たち」


(以前、講演をする前に会った時、

男は女を抱くと輝くとか言っていたことを思い出した)

↓↓


(男が輝く、というフレーズ繋がりで、こちらのブログが

面白かったです‼︎)

↓↓



その後、時間に正確な彼にしては珍しく、

約束の時間を1時間遅らせてほしいと連絡があった。


しかも、会う日の朝になって、

更に1時間、待ち合わせ時間を遅らせてほしいという

連絡があった。

本当のお茶でもいい?”という

メッセージも添えられていた。


私はもうその日は出かけられるように予定を

組んでいた。

せっかく待ち合わせ時間まで空き時間があるのならと

待ち合わせ場所のひと駅隣の

ずっと気になっていた観葉植物屋さんに行った。


イメージにぴったりの観葉植物をいくつも見つけて、

ひとつだけ選ぶのが難しかった。

店員さんに、育てやすさについて色々聞き、

キセログラフィカという観葉植物を買った。



形がとても気に入ったので、

良い買い物ができたとウキウキした。

でも、そうやって買い物を頼んでいたら

待ち合わせ時間よりも遅くなってしまった。


彼に指定されたカフェに着くと、

テラスでパソコンを開いて作業しているがいた。


遅くなってごめんなさい」

ううん、こちらこそ今日はごめんね」


私が座ろうとした側のテーブルの上にUSBメモリーのスティックが置いたままになっていた。


大事なものが置きっぱなしになってますよ」

「あ、ほんとだ」

「 お忙しそうですね」

ええ、おかげさまで色々と忙しいです」

てっきり午後に講演会なのかと思ったら午前中だったんですか?」

いえ、午後からです。ちょっとスライドを作り終わらなくって。今こんな感じなんですけど見てもらえますか」


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