彼が私に、講演会用のスライドのチェックを
頼んでくる事なんて初めてだ。
嬉しくなって、カフェのテラス席で
1枚1枚見させてもらう。
こういう時、私はけっこう真剣なモードで
チェックしてしまう。
(以前、彼が本を出した時にも、
客観的な目線で読んでしまった。
そして、すごいなと思いながらも
誤字脱字を3箇所見つけてしまい
それをきちんと指摘してあげることが
自分の義務のような気分になった。
きっと職業病なのだろう)
彼が準備したスライドの内容が
いまいちでありませんように、と
思いながら見始めた。
この感覚は、彼の本の時や
ラジオ出演の時と同じだ。
厳密には、今回は、
“幻滅しませんように…”と思いながら見た。
彼が年下で、私の方がキャリアが長いということが
こういう時に変な形で首をもたげる。
彼は彼で、私が適当に
おだてたりお世辞を言ったりしたら
すぐに見抜いてしまうだろう。
私がスライドを確認していた数分間の間、
沈黙が流れた。
結果的に、幻滅どころか、
量も質も、予想以上に良くて、
ホッとするというゴールを越えて
“やっぱり彼はすごい!”と思ってしまう内容だった。
当然ながら真面目な内容が書かれている
スライドだったのだが、
最先端の海外の様子から、
少し遅れて追随する日本の話に切り替わる時に
昔ながらの承認システムの象徴である
ハンコの画像が大きく載っていて笑った。
「ここで笑いをとるんですね。」
「そう、伝わるかな」
「前後がとても固い内容なので、ひと息ついてもらうためにもいいですね。ギャップがすごいから、
絶対笑いがとれますよ!
真面目なプレゼンで笑いを取るって1番難しいですよね。海外の偉い人なんかは自然にやってるけど。
笑いを取れると、オーディエンスの気持ちを
掴める気がします」
「よかった。これで良いかな?」
「すっごく良いと思います!」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいです。
やっとひと息つけます。今回は子どものお世話などがあって、思ったように時間を取れなくて準備が
ぎりぎりまでかかっちゃって。」
そこから少し、お茶を飲みながら雑談をした。
コロナ真っ只中で、人間の住み方、集まり方、
移動の仕方が変わるよね、という文脈で、
建築家の本、アジア方面、物流関係の話をした。
偶然にも、最近開催された
人間の歴史と建築の歴史をテーマにした
大規模な展示会に、
2人とも行っていたことが分かって、
また話が盛り上がった。
そして、ユニークな思想に基づく建築論を
展開した、一般にはあまり知られていない
建築家の本を薦められた。
とても面白そうだったので、
書籍のオンライン販売サイトを開いて一緒に見た。
それは、何十年も前に出版された古い本だったが、
新型コロナ感染症が広がった世界を
経験した現代の視点で読むと
とても斬新で魅力的な本に思えた。
ラブホテルに行くのとは別の、
爽やかで楽しい時間だった。
彼とは本当に趣味が合うので、
もし私たちが健全な友人関係だったら
きっと一生の付き合いになっただろう。
そんなことを確信してしまうひとときになった。
(違うタイミングで、彼からも
“僕たちは一生こうなんだよ”と言われたことがある。
彼が言っていたのは性的な意味合いだったのだろうが)
↓↓
「ごめん、今日はそろそろ行かなきゃ」
「はい」
一緒にカフェを出ると、
彼は大通りに出る最短ルートとは逆の
細い道を歩き出した。
私は、軽く散歩をしながら会場に行くのかな?と
思ってついて行った。
「コロナとかビザの関係で、
今は海外に行かないことになって
本当に良かったです。ちょっと心配だったから。」
「そうだね、少しのタイミングで、行かないことになって。」
「今の状況だと、ジョーカーっていう映画みたいなことが現実に起きてるみたいに見えます。」
「そうだね、僕、ジョーカーとパラサイトと万引き家族全部観ちゃった。」
「あ、私もジョーカーと万引き家族見ました!」
(ジョーカーの映画は、どういう流れだったかが忘れたが、珍しくダンナと映画館で観たのだった)
「今って、世界じゅうでああいう映画が
作られて受け入れられるような状況なんだろうね。」
「ですね。パラサイトも観てみます。」
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