結婚式が終わり、半年振りにCオフィス(矯正歯科)に電話し、精密検査の予約を入れる。
この矯正歯科にはふたりの医師がおり、ひとりは矯正専門だが、もうひとりの院長は予防歯科の専門らしい。無料診断のときは院長から話を聞いたのだが、今日は矯正専門の医師が検査を行った。
精密検査はレントゲンと歯型とりと噛み合わせのチェックだった。私の顔の周りをぐるりと一周しながらレントゲンの機械が奏でるのは「It's a small world」のメロディ。ディズニーランドの超がら空きスポット、疲れたときに休みがてら船に乗って民族衣装を着た電動人形を眺めるスモールワールドのあの曲である。なぜこの曲が・・・、とおそらくここでレントゲン撮影をした人はみな思うことであろうことを私もふと思い、終わると先生が「何の曲が流れましたか~?」と笑顔で聞いてくるので、おずおずと「イッツアスモールワールドが・・・」と答える。なぜかなんとなく恥ずかしい。
それから診療台に座って歯型を取る。先生はペーストを練りながら「歯型を取ったことはありますか?」と聞くので「ホワイトニングをしたときにマウスピースを作りました」と正直に答えると「ホワイトニングは歯を溶かしているんです。虫歯をみずから作っているようなものです。やめたほうがいいですよ」と淡々と、でも表情は笑顔のまま言い、なんてことを私はしていたんだと、ものすごい恐怖心を抱くが「結婚式のためにやっていて・・・」と言うと先生は「まあそういう時ぐらいだったらいいですけどね」と言ってくれた。先生がもったりもったりとペーストを練っている横で、帰宅したら冷蔵庫に残っているホワイトニング薬剤をすべて破棄することを考える。
銀色の枠につめられたやわらかく冷たいペーストをまずは下の歯に当てて数分間そのままの状態で待つ。そして、先生がはずしますよーと言い、口に手を入れるとペーストはすでに固まっており、かぱっときれいに外れる。同様の手順で上の歯の歯型もとる。歯型を取った後は、かみ合わせのチェックのためなのか、ピンク色の硬いゴムのようなものを噛んでくださいというので、しばらく噛んで歯形をつける。
検査はこれで終了し、あとは院長によるフロス歯磨きの指導だった。私は一度も虫歯を作ったことがない。自分の歯の磨き方について自信があるわけではないが、おそらく歯そのものが丈夫で虫歯ができにくいのであろう。そのため歯磨きについて特別私は関心を持ったことがなく、いつもドラッグストアで安売りしている歯ブラシと歯磨き粉でしゃかしゃかと磨くだけである。フロスなんて面倒な歯磨きの方法は一度もやったことがない。
ここの矯正歯科の特徴としてはフロスの歯磨き指導があるのだが、まず最初に糸の取り出し方、指の巻き付け方、磨くときの指の構え方など先生が隣に座って丁寧に教えてくださる。しかし、はじめてなのでまったく勝手がわからず、おまけに不器用なので先生が動かすように指がまったく動かない。「左の中指をもっとこういう角度で」などと先生が教えてくれるが、その角度を私がするとかなり不自然な手の動きになり、こうなると口の中に入れるのもかなり難しい。指だけでなく手首の角度もかなり重要で、思っていたように体(手首、指先)は動かず私も中年(30代)になったなと思い知らさせる。
またその場でフロスを使って自分の歯を磨くことになるのだが、鏡もなく自分の歯がどこにあるのかわからないままこのあたりに歯があるだろうかという感じで勘でフロスをあて、こするとなにやら汚れがでてきているらしく、先生が「あっ、いま出てきましたよ」などと言うがさっぱりわからない。口全体によだれもたまってきて、フロスの糸も血で赤く染まっているし、汚いうえに恥ずかしい。はやくフロス指導が終わって欲しいと思ったが、私の技術習得が低いため先生もすぐには終わらせてくれず、しばらくそのようなやりとりが続き、まるで個人指導の塾でわからないのに先生がずっと隣に座って算数が解けるまで帰らせてくれない小学生の気分になる。
体は中年なのに、心は何もできない頭の悪い小学生。
この日の精密検査の結果は一週間後に教えてもらうことになる。