「武士道−仁」について | 行く河の流れ

行く河の流れ

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

 以下、『武士道』(新渡戸稲造著 奈良本辰也訳)第5章をまとめる。

 愛、寛容、他者への同情、憐れみの情は人間の魂がもつあらゆる性質の中で最高のものと認められてきた。「仁」は優しく、母のような徳である。
 「武士の情け」すなわち武士の優しさは私たちの内にも存在する高潔なものに訴える響きをもっている。それは武士の慈悲が盲目的衝動ではなく、正義に対する適切な配慮を認めているということを意味している。またその慈悲は、単にある心の状態の姿というのではなくて、生かしたり殺したりする力を背後に持っていることを意味する。
 戦いの恐怖の中で他者への哀れみの心に貢献したのは、ヨーロッパに置いてはキリスト教であったが、日本においては音楽や書に対する嗜みがそれをなした。優しい感情を育てることが、他者の苦しみに対する思いやりの気持ちを育てる。他者の感情を尊重することから生まれる謙虚さ、慇懃さが「礼」の根源である。