
ERTとは初療室開胸のことです.超緊急で止血が必要,手術室まで移動出来ない状況などの時に行います.
本日のドクターヘリ
1件目 交通外傷(乗用車 VS 乗用車)
4名の傷病者の内,1名が重症とのことでヘリ要請です.情報は「ショック状態」.ランデブーポイントまで10分もかかりません.輸液2ルート,気管挿管準備,エコー準備,骨髄針(BIG)用意など行います.ランデブーポイント着陸直前に無線がはいります.「急変,意識レベル低下!」.着陸後,すでにランデブーポイントに到着していた救急車内に乗り込みます.全脊柱固定された患者さんは,顔面蒼白,頻呼吸,冷汗著明,橈骨動脈は触知不可です.末梢ルートを2本確保,加圧バッグで急速輸液です.と同時に出血源の検索.FASTでは心嚢液貯留なし,腹腔内液体貯留なし・・・ん,右胸腔に血液?しかし,胸部に外傷,動揺はありません.左大腿骨骨折もあり,骨盤骨折を疑いサムスリング装着.まだまだ橈骨は微弱です.やばい状況に変わりありません.速やかに気管挿管を行い搬送を開始します.ヘリ機内でもFASTを繰り返します.すると右胸腔内の液体貯留が増えてきています!やはり血胸!?幸い1000mLの急速輸液で橈骨動脈は触知可能になっています.胸腔ドレナージも考えますが,もうすぐTECCMCへ着陸です.ならば根治的治療を含め,初療室での展開を決断します.ヘリポートには幸部先生のお出迎え.状況は非常に切迫しています.病院前から予めオーダーしていた緊急輸血を投与.バックボードごとレントゲン撮影,初療室でのFASTでも右胸腔内の液体貯留は増えています.松井先生が胸腔ドレーンを挿入します.真っ赤な血液が溢れ出ます.やはり大量血胸!出血源は?身体所見,胸部レントゲンでもはっきりしません.循環は不安手なまま.ならば出血源精査と止血目的にERTです.静脈麻酔をしつつ胸部の消毒,その間に手術室の看護師さんが機材とともに初療室へ.あっという間に開胸,肺挫傷もありhilar twist.さらに検索すると・・・ありました,胸椎椎体の破裂骨折部からの出血です.一番やっかいな出血.と同時に心停止.左開胸も追加し蘇生開始.緊急輸血追加.椎体からの出血は破裂部にガーゼをパッキングし一時止血を試みます.心拍も再開.止血もいけそう.ならば一時閉胸しICUで全身管理です・・・夜間にアシドーシス改善,体温も上昇,出血傾向も消失,そして意志疎通も可能になりました.さて,明後日ガーゼ除去を含めた手術を予定しましょう.
ヘリがなければ救急車内で心肺停止になっていた患者さんです.消防の適切な要請により,1人の命が救われました.北近畿,もはや救急医療・外傷対応過疎とは言わせません.
午後からはあっという間の時間が過ぎました.明日午後から朝来市で講演を行います.さて,準備しないと・・・








