【今週のワンポイント-8】いざ、武衛 | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

 今回のワンポイントは「武衛(ぶえい)」。

  劇中で畠山重忠が言っていたように、「武衛」とは兵衛府の別名である。では、なぜそん別名があるかというと、日本の官職名を中国の官職名に置きかえた呼び名なのである。こういう呼び方を唐名(とうめい・とうみょう)といって、奈良時代から使われ出して、平安時代以降は盛んに用いられた。

 『吾妻鏡』では、治承4年(1180)から文治元年(1185)5月11日まで、頼朝のことを「武衛」と呼んでいる。同年4月には平家討滅の功により従二位に叙させられるので、『吾妻鏡』は「二品(にほん)」と呼ぶようになるが、これも二位の唐名だ。

 これ、はっきり言って、意識高い系の人がグローバルスタンダードぶって、やたらカタカナ語を使いたがる感覚である。現在にたとえるなら、社長をCEOと言ったり、中間管理職をリーダーとかマネージャーとか言うのと同じ。

 でも、貴族たちが気取って盛んに使ったおかげで、すっかり定着したので、僕らも意外に違和感なく受けいれている。

 代表的なのが、清盛を指す「平相国入道」。相国(しょうこく)は太政大臣の唐名で、平家の太政大臣が出家したから「平相国入道」なのだ。

 大河ドラマ『平清盛』を見ていた人は、今回、三浦義村役の山本耕史が「悪左府(あくさふ)頼長」を好演していたことをご記憶と思う。この左府も左相府(さしょうふ)の略で、左大臣のこと。なので、「悪左府」とは「きっつい左大臣」みたいな意味だ。

 来年の大河の主人公である徳川家康の「内府殿」もおなじみだが、「内府」は内大臣のこと。家康は、豊臣政権下で内大臣に任じられたから「内府殿」。

 劇中の上総介広常は、「武衛」が兵衛府の唐名だなんてよくわからずに、ちょっといい言葉を知ったな、くらいの感覚で呼んでいるようだ。僕なんか同世代の人なら、『草燃える』で小松方正演じる広常が、頼朝(石坂浩二)を「武衛」と呼んでいたことを思い出すかもしれない。

 

(西股総生)

 

《ワンポイントイラスト》

 

 

声に出して言いたい「唐名」。今で言うところのCEOみたいな?

 

(みかめゆきよみ)