印刷技術 湿し水と紙の関係 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

「印刷する紙によって、湿し水の上げ方が変わると思うのですが、

 そうした点に関して、成田さんは、どの様な指標を、お持ちですか?」

・・・と言う、質問を頂きました。

 

以前、湿し水ではなく、インキの盛り量に関して、紙質が変わってもインキを盛る

量を変えない。と言う話を伺った事が有りましたが、私はこれ、紙質が変われば、

インキの盛り量を変えるのは、当たり前だ!と考えています。

 

例えば、コート紙を刷る時と同じインキ盛り量で同じ絵柄を、上質紙に刷ったら、

こりゃ、アホみたいにスカスカな、淡い絵柄に成ってしまいますよね。まぁそれが

上質紙に刷った時の質感だ!と、言えなくもないんですが、私は違うと考えます。

お客さんが求める品質がね、どうなのかにもよりますがコート紙と同等の質感で、

上質紙にカラー印刷が出来る事を望むお客さんの方が多いと思っています。

 

極端な話、コート紙と同じインキ盛り量で同じ絵柄を、ユポに刷ったらどう成るか。

これね、コテコテのインキ盛りに成ってしまいます。「えッ?ウチでは普通にコート

と同じ感じで刷れてるけど」 ・・・それ、湿し水が多過ぎです。ユポ用に、キッチリ

湿し水を絞ったら、コートと同じインキ盛りで、ユポなど刷れませんよ。

 

コート紙は、ある程度インキを吸い込みます。上質紙は、もっとインキを吸い込み

ますよね。それに比べて、ユポは全くインキを吸い込みません。これほどまでに、

異なる表面を持った用紙に対して、同じインキ盛りでイイわけがないですよねぇ。

でも、コートとユポで同じインキ盛りをしている。そりゃ水が多過ぎるからであって、

多過ぎる水が乾燥を遅らせ、裏移りや、色調不良の原因に成っているんですわ。

 

紙によって、インキの盛り量が変わる。インキの量が変われば、湿し水の量が

変わってしまう事も当たり前。しかも、水を吸い込みやすい紙も有れば、水を

全く吸い込まない紙も有る。シビアに見れば、その日の湿度や温度によっても、

水の上げ量は当然の様に変わる。紙質の変化だけではなく、様々な要因で

水の制御が変わって来る。だから私は、水目盛りと言う物に興味が無い。

まぁ、当然の事ながら、参考程度には見ますけどね。

 

私の基本は、まず、湿し水を極限まで絞る事です。どんな場合でも、極限まで、

湿し水を絞った状態が、スタート地点なんですわ。そしてそのスタート地点を、

水目盛りの数値で決めると言う事を一切しません。例えばコート紙なら最初は

15の水目盛りとか、上質紙なら20、ユポなら5からスタート。なんて考えは、

私には無いんですわ。常に、極限・最少の水出し量を探っています。

 

ですからね、「紙質と湿し水の関係」なんて言う概念が、私には無いんですわ。

昔ね、「絵柄が少ない印刷物は、版面上に湿し水が必要な部分が多いから、

湿し水は多目に出せ。それに対して、ベタの多い印刷物は、版面上にも水を

必要とする部分が少ないから、水を絞れ」と、解説していた講師が居ました。

 

これダメだって分かりますよねぇ。絵柄が少ない印刷物ってヤツはインキの

消費量が少なく、ただでさえ乳化しやすいですよね。そこへ湿し水を多目に

してしまったら、こりゃ、どうぞ乳化して、トラブルを起こして下さい!って言っ

てるようなもんですわ。・・・講師の先生が、自分で考えた、さも正しそうな、

素晴らしい理論に聞こえるかも知れませんが、実務経験の無い講師さんは、

時々、飛んでも無い事を言いますから要注意なんですよ~。

 

絵柄が少なかろうが、多かろうが、とにかく必死に湿し水を絞れ!ってのが、

一番の基本だって分かりますよね。だから、紙が変わった場合も同じなんです。

上質紙だろうが、コート紙だろうが、ユポだろうが、とにかく極限まで水を絞れ!

それが、オフセット印刷の基本じゃッ!って事なんですわ。