印刷技術 50%を見る | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

「目を鍛える」ってな話で、書いたかと思うんですが、今、印刷している、その

印刷物のデキが良いのか悪いのか?ってのは、我々、印刷オペレータが自ら

判断するべきものなんですよ。だってねぇ、自分の印刷物の評価くらい、正しく

出来ない様では何を目標に、どう改善するべきなのか皆目分からんですよね。

 

「ああ、今のオレの印刷物は、ベタのツブレが悪いなぁ」とか、「諧調再現が、

全くアカンわ~」とかって事が自分で分かれば、それを改善する為に、何を

するべきか?って事を勉強して実行すればイイだけの話です。ところがねぇ、

何が悪いのか全く分からん。とか、これって何か悪いのかなぁ?なんて言っ

てるようでは、改善の第一歩すら、踏み出す事が出来ませんわね。

 

「印刷物A」と、「印刷物B」を並べて、どっちのデキがイイですか?なんて言う

判別はね、シロウトさんでも出来るんですよ。我々プロは、印刷物A だけを見て

「濃度が不足している。ドットゲインが激しい。10%に素抜けが目立つから水を

多く出し過ぎてしまっている」 なんて事を判別出来なきゃアカンのですわ。

 

例えばね、有名な画家が描いた本物の絵と、それに似せて描いた贋作の絵の

2枚を並べて、どっちが本物か?と言われても、絵に詳しくない私が見たって、

こりゃ正直、どっちが本物なのか分かりません。でもプロの絵画鑑定士ならば、

そのどちらか1枚だけを見て、それが本物なのか、贋作なのかを確実に判別し

なければ成りませんよね。それを見抜けず、贋作を高値で買ってしまったらねぇ、

こりゃ、プロとして飯を食って行く事が出来ませんわね。

 

先日、20年来の付き合いが有る印刷オペレータから、色調が悪いんだけど、どう

したらいいかなぁ?と言う相談を、電話で受けました。私が知る限り、彼は非常に

優秀なオペレータなので、その彼が、あえて相談して来るのであればと、かなり

高度なアドバイスして、彼も充分に納得してくれたので、そのアドバイスを反映

させて刷り上げた印刷物を、後日、実際に見せてもらったのですが…。

 

正直なところ、ビックリしました。・・・まぁねぇ、彼の腕前ですから、ベタは最高に

キレイですし、小さな網点の再現もバッチリですわ。でもね、4色カラーの写真の

再現性が最悪。諧調(グラデーション)が全くダメダメ。人の顔写真で言うならば、

ハイライト(一番明るい所)と、シャドー(一番暗い所)の再現はイイんだけどさぁ、

中間調がすっ飛んでしまってオバケの様な顔に成ってしまっている。

 

こんなヒドイ再現の印刷物を、本当に君が刷ったのッ!これがダメだって事、

君の実力なら分かるよねぇ!これ、100点満点中、20点だよッ!って言ったら、

私の印刷仲間から、「そりゃ成田さん、知り合い割り増しの点数だよ。これは、

0点の印刷物でしょ。」 などと言われてしまう程の、デキだったんですよ。

 

自分で刷った、この印刷物の、50%の網点、自分自身の目で見た?見てないよね。

もし見て確認してたら、50%の網点が45%に成ってしまっている事くらい、君なら、

絶対に分かるよね。50%を思いっ切りロス(細く)してしまってるから写真の中間調

が全く再現出来ていない。こんな状態で刷り出しちゃ話に成らんよねぇ。

 

「いや~、製版の画像処理や、刷版の出力カーブとかは、全く分からんからさぁ~」

百歩譲って、そんな事は分からんでもいいよ。だけどね、白い紙に、自分の印刷機で

色を付けた、50%の網点、その再現性は印刷オペレータである君に全責任が有ると

思わんか?その50%がシッカリ再現出来ていなければ、まともな色調再現なんて、

出来る訳が無いよねぇ。君の印刷技術が未熟だとは言わん。でもな、1級技能士と

して、このまま刷り出してしまった、君の判断は確実に間違ってるよ。

 

50%が50%で再現されていない。自分の印刷技術には、自信が有るだろうから、

まず刷版を疑うべきだろ。刷版係の人と相談して、それでも分からないなら、CTPの

メーカーさんに相談してみればいいだけの事だ。「いや~、ウチのプルーフ(色見本の

出力機)が悪くて、まともな色が出てないのに、それで営業が、お客さんから、OKを

もらって来ちゃうから、いろいろと苦労してるんですわ~」

 

おい、おい、おい、おい!おまえは、一番下っ端の新米社員かッ!そんなセリフは、

退職間際のクソオヤジか、リストラ寸前のダメオペレータが言うセリフだろうがッ!

1級技能士と言う、国家資格を持った者が、そんな事を言ってて、どうするッ!

版がダメなら、版の勉強をしろ。製版がダメなら、製版の勉強をしろ。プルーフが

ダメなら、プルーフの勉強をして、最善の方法を会社に提案する。それが国家資格

を持った者の、最低限の仕事じゃないのか?

 

あれが悪い、これがダメとか言っていられる立場じゃないだろ。印刷の仕事が入る、

その瞬間から、製品として出荷されて納められるまで、その印刷物の品質に関して

全ての責任を負うのが、国家資格を持った者の仕事だろ。そこまで会社に貢献する

事が出来るから、有資格者としての価値が有るんじゃないのか。

 

刷版係が無能だとか、営業が何も考えてないとか、そんな事は当たり前だと思え。

1級技能士の君が居るんだから、他の人達は当然の様に、君を頼るさ。君自身が

全てを仕切るんだよ。それが国家資格を持った者の責務だと思って学びなさい。

君なら、絶対にそれが出来るはずだ。


この印刷物の不出来さは、他の誰かの責任ではなく、国家資格者としての君が、

全ての責任を負うべき物なんだよ。あの印刷会社には、1級技能士が居るから、

やっぱりイイ物を刷ってくれる。本当は値段の安い印刷通販さんに出したいん

だけど、このパンフだけは、ウチの会社の顔だから、良い品質じゃないとダメ

なので、値段が高くても1級技能士が居る印刷会社に頼む事にした。


そう言う印刷物が有るからこそ、オレ達の技術力が活かされる場が有る。

そうした、お客さんの要望に応えるのが我々、国家資格者の仕事なんだよ。