印刷技術 紅の部分消滅 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

ずっと昔に書いた話ですが、先日、久し振りに同様の事例を聞きました。

今後の注意の為にも、再度、書き残しておきたく思いましたので、お付き合い

下さいませ~。もしこのトラブルが発生してしまうと、大変な事に成りますので、

知っておいて、損の無い知識だと思います。

 

問題は、屋外貼りのポスターで発生しました。今時、屋外貼りのポスターと言えば

ユポを使うのが普通かと思うのですが、時には、コート紙に刷って、PP貼りなどの、

表面加工をする場合も有るかと思います。・・・実は、これが大問題なんですよ~。

 

私が経験したのは、10年以上前の話なんですが、男性で現職の年配議員さんの

選挙ポスターだったんですわ。下請け仕事だったので、発注者である他社の印刷

会社さんからの指示に、全て従わざるを得ない訳です。

 

コート紙に4色カラーで印刷して、その上からPP貼りをして納めると言う仕事です。

季節は真夏。屋外貼りだから、耐光インキの使用は絶対だろうと思ったのに、その

指示が記されていない。担当営業に確認してみると、予算が無いし、貼り出し期間

が短いから、耐光インキではなく、通常のインキで良いとの事。

 

指示通りに刷って、納めたところ、その1週間後に、大クレームが発生したんですよ。

「大至急、見に来いッ!」と言うので、その選挙ポスターが貼ってある掲示板の所へ

行ってみると、まぁ、こりゃビックリしました。選挙ポスターですからね、立候補者さん

の写真が、デカデカと載ってる訳なんですが、その立候補者さんの顔の、半分以上、

2/3位の部分の紅色が、無く成ってしまっていたんです。

 

耐光インキを使っていませんでしたから、紅が退色してしまうのは、ある程度、覚悟

していたのですが、普通は紅より黄色の方が弱いですよねぇ。でも、黄色の方はね、

何ともなかったんです。しかも、紅に関しても、全ての部分が、退色しているのでは

なくて、部分的な退色と言うより、部分的に全く、紅色が無く成ってしまっているッ!

と言う何とも、理解不能な状態だったんですわ。

 

チョッと想像してみて下さい。立候補者さんの顔のほとんどから、紅だけが抜けて

しまった写真。全ての部分で抜けてしまっていれば、まだマシだったかも知れない

んですが、顔部分の2/3が抜けてて、あとの1/3部分は、紅が残っているんですよ。

この写真、病人と言うより、もう、オバケの様な写真に成ってしまっていました。

 

「これで選挙に落選したら、この写真のせいだからなッ!」・・・そりゃ、そう言いたく

成りますわねぇ。オバケの様な顔した写真の人に投票する人なんて、居ませんわ。

ま、しかし、写真のデキに関わらず、名前で当選されたので、事なきを得ました。

 

さて、こんな状況に成ってしまった原因なんですが、こりゃ私も初体験で分からない

ので、インキメーカーさんに聞いてみました。「ああ、それやっちゃいましたか。我々

の注意喚起が不足していたので申し訳ないんですが、それは起こるんですよ。」

 

とにかくダメなのは、「水分と紫外線」なのだそうです。水分が残っていて、そこに、

強烈な紫外線が当たると、紅の顔料が防爆(?)してしまって、色が全く無く成って

しまうのだそうです。耐光性インキでもダメで、ましてや普通インキでは話にも成ら

ないとの事。そこで「耐候インキ」と言うのを出してるのだが、それでも完全に防ぐ

事は難しいのだと言う説明を受けました。

 

季節は夏。屋外貼りで、野ざらし状態のポスター。夏特有の強烈な夕立が降り出し、

ポスターを濡らす。PP貼りがしてあるので、正面からの雨を弾く事は出来るのだけど、

貼ってあるポスターの、側面から侵入する強烈な雨を防ぐ事は不可能。側面側から

侵入した雨が、裏側からポスターの紙を濡らす事と成る。

 

夏の昼間の夕立は、一気に辺りを水浸しにしたかと思うと、雲が通り過ぎれば今度は

太陽が顔を出し、強烈な紫外線を浴びせまくる。・・・この時、PP貼りがしてなければ、

強烈な紫外線と真夏の温度で、濡れたポスターを一気に乾かす事も可能なんだけど、

PP貼りのおかげで、裏面から侵入した雨水を乾燥させる事が出来ない。

 

これで紅顔料にとって最悪な、水分と紫外線の出来上がりです。水分が残ってしまった

部分だけ、本当に部分的に、紅の顔料が消えて無く成ると言う、不思議な状態が出来

上がってしまうんですわ。これが起ってしまった印刷物ってね、本当に異様ですよ。

 

印刷物を発注して下さる、お客さんやデザイナーさんは、こうした事を知らずコート紙に

PP貼りをした屋外貼りポスターを依頼される事も有ろうかと思いますが、これは本当に

ヤバいです。そのポスターを使用される状況を、シッカリお伺いして、ユポを使うなどの

提案をされた方が、お客さんも、我々もハッピーかと思います。