印刷技術 届かないアドバイス | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

プリンティング・スーパー・アドバイザーってのをやっていて、一番寂しいのは、

そのアドバイスが届かない事なんですよ。・・・人って、おもしろいもんでしてね、

「今現在、迷いながらやってる」って言う事柄を、「あッ!それは正しいですよ!」

と肯定してさしあげると、「そうですかッ!成田さんからOK頂ければ自信持って

やれます!」なんて話になるんですわ~。

 

その逆に、迷いながらやってる事を、「あッ!それでも悪くはないですが、例えば、

こんなやり方に替えたら、その方が楽ですよね」とか言うと、これも、すんなりと、

受け入れてもらえます。「迷いながらやってる事」ですから、自分でも疑問を持って

いるワケですよね。疑問の部分を解説してあげて、納得すれば、迷わずに判断が

出来て、それまでとは違うやり方も、簡単に受け入れて頂く事が出来ます。

 

アカンのはね、実際に目の前に様々な問題が有るのに、その問題に対して、

「何も悩んでいない人」、「何も考えていない人」達なんですよ。

 

裏移りが止まらないから指導して欲しいと経営者さんから依頼され、現場に行って

みると、まぁ湿し水がドボドボに上がってて、インキはドバドバに出されてて、こりゃ

もう、「どうぞ、好きなだけ裏移りして下さいッ!」って感じの刷り方だったんですよ。

 

こんな刷り方してちゃ、裏移りは止まらんでしょう。「・・・次はもっと、パウダーを多く

する様にします」 いやいや、そうじゃなくてさ、湿し水を、もっと絞らんとアカンよ。

「・・・汚れます」 だからさ、インキが多過ぎなのさ。もっとインキを少なくすればさ、

汚れは出ないから、そんなに水を上げなくても刷れるよ。「・・・淡く成ります」

 

キッチリ湿し水が絞れてれば、インキの量が、もっと少なくても淡くは成らないよ。

今のやり方だと、インキを 1/3減らして、水を絞れば、充分な色調が出せるよ。

「・・・汚れます」 いやだからさ、汚れやしないって!「・・・先輩から、絶対に汚れは

出すな!それで裏移りするようならもっと細かく板取りするかパウダーを増やせ!

と教えられたので」 そっか、自分自身じゃ何も試していないし、何も考えては、

いないんやね。古い先輩の、間違った教えだけが、君の全てなんやなぁ~。

「・・・よく分からんですが、先輩から教わった方法で10年以上やってますんで」

 

悲しい話ですが、このレベルのオペレータが、全体の半数を占めているんですわ。

「水を上げても、汚れが止まらん様なら、エッチ液の濃度を増やせ!」 なんて言う

先輩からの間違った指示には従うのに、私の理論は一切、受付けようとしない。

先輩の教えが悪くて失敗するのならば、それは先輩が悪いのであって、自分が

悪いと言う思いが少なくて済む。だけど、私が新しい事を教えて、それを実行して

失敗したら、部外者の私のせいにはし難い。だから、全て、今まで通り。

 

愚痴は人一倍言う。「上に言っても、ローラー交換させてくれないから、成田さんの

方から上に言ってやって下さいよ」 って、そんな事までオレに頼むんなら、せめて

オレの言う事を全て実行してからにせいやッ!って、言いたく成りますよね(笑)。

 

この、何も試していない、何も考えていないオペレータ君に、印刷の仕方を教えた

「先輩」って方もね、決して間違いを教えた訳ではないと思うんですよ。先輩さんに

とっては、その時代における、ベストな方法を伝授されたんだと思うんです。でもね、

もう、先輩さんの時代とは違うんですわ。印刷機の機構も資材も材料も、全て進化

していて、印刷技術に対する考え方そのものも、変わって来ているんですよ。

 

いつまでも、先輩に頼ってちゃアカンです。今の時代が求める、今の時代に合った

印刷技術ってヤツを、自分自身で構築しなきゃアカンのですわ。何事も徹底的に

「試す!」。それで失敗したら、その原因を必死に成って「考える!」 それがねぇ、

いつの時代にでも、最も重要な、オペレータの仕事なんだと思いますよ。

 

試す事。チャレンジし続ける事。考える事。・・・そうした事を放棄した印刷機担当者

の事をね、技術者とは呼ばないんですよ。それは、ただ単にね、印刷機のボタンを

押してるだけの「作業者」なんですわ。作業者だと割り切るのであれば、そんな所に

給料の高い正社員を配置する必要は有りませんわね。パートさんで充分ですわ。

または、日本語を話す事が出来ない様な、海外研修生さんでもイイですわね。

 

印刷技術ってね、本当に難しくて、本当に複雑なものなんですよ。それを正しく制御

して行く為に、何よりも必要なのが、優秀な技術者なんですわ。失敗を恐れずに試し、

メッチャ面倒だけど、どんな事にでもチャレンジし、とにかく、必死に成って考える事。

たったそれだけが出来れば、技術者としての道を開く事が出来るんです。

 

これってね、どんな職業でも同じだと思うんです。誰にでも出来る様な事であるなら、

低賃金な人達に任せておけばいい。でもね、どんな職種にだって、その根幹に成る

部分が有りますわね。その部分に関しては、どうしたって、それなり以上のスキルを

求められるのが当然で、誰にでも出来ると言う事では済まなく成ります。

 

印刷機オペレータってのも、決して誰にでも出来る分野のものではなく、その会社の

根幹に成る部分の仕事なんですよ。オペレータが作り出す印刷物の品質一つで印刷

会社の未来が大きく変わってしまう。そんな責任を背負ってるのが印刷オペレータの

仕事なのだと言う事を、充分に認識して欲しく思う次第です。