印刷技術 最初の水が多い | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

昨日は、インキを多く出し過ぎて、失敗を重ねてしまう、元気君の話でした。

最初に出すインキの量が多過ぎるから、汚れが出てしまう。汚れを消す為に

湿し水を多くする。⇒ 淡く成る ⇒ インキ盛る ⇒ 汚れる ⇒ 水上げる って

言う、負のスパイラルから抜け出せず、不良品を量産してしまっていました。

 

その逆に、最初っから、湿し水が多過ぎる人って居るのかな?って、ずっと、

探してたんですが、これも、その典型的と言える人に出会った事が有ります。

・・・印刷工場さんで印刷指導をしていた時の話しです。ケッコウ、難易度の

高い印刷物を刷っておられて、この日は特色刷りの連続だったんですよ。

 

一つ目の印刷が終わって、次の物は、また違う特色なのでローラーを洗浄

して、インキを入れ替え、版を替えて、なんて言う作業を済ませ、いよいよ

試し刷り開始と成るんですが、その時にオペレータさんが湿し水の目盛りを、

20目盛りづつ、全てのユニットでアップさせたんですわ~。

 

何で20目盛りも上げたの?「えッ?何でそんな事、聞くんです?これって

当り前にやる、基本的なやり方じゃないんですか?」・・・あ、そうなんだ~、

君にとっては、他のオペレータもやってる、基本的なやり方って言う認識に

成ってしまっているってワケなんだねぇ~。(こりゃまた大変やなぁ・・・)

 

彼が「基本的」って言う、やり方を黙って見ていると、試し刷りの2回目まで、

水目盛り20アップのまま進み、3回目の前に20ダウンさせて、前に刷って

いた印刷物の数値にまで、湿し水の量を下げると言う、やり方でした。

 

このやり方を、「当たり前にやる、基本的なやり方」と豪語しているところを

みると、こりゃ彼自身が開発したやり方ではなく、きっと誰かに教わったん

だろうと思い訊いてみました。「ああ、そうです。上司から教わりました。」

なるほどね、それで、その上司さんは、こんな事をやる理由は、何だと?

 

「新しい版を汚してしまうと地汚れが出て面倒だから、版替えをした最初は、

湿し水を多目にしろと。」・・・シルバーマスターの刷り方かよぉ(笑)。なんで

そんなバカげた、間違ったやり方を教えてしまうのかなぁ。きっとその上司

とやらも、インキを最初っから多く出し過ぎてしまう人なんだろうなぁ。

 

とりあえず、その上司さんから教わったやり方は、明らかに間違っている!

世の中の他のオペレータは、誰もそんな事を、当たり前にはやってないし、

基本から外れたメチャクチャなやり方なんだよ。「ええッ!誰もやってない?

オレだけですか?」 そう、私が知る限り、日本中で、君だけだよ。

 

だってさ、チョッと考えてごらん。前の仕事までは、その水目盛りで正常に

印刷出来てたワケでしょう。って事は、現在の印刷機のコンディションなら、

そのままの水目盛りで印刷可能って考えるのが普通だよねぇ。それをさぁ、

20目盛りも上げてスタートさせるって方が、明らかに異常じゃん。

 

20目盛りも多目に出してしまった湿し水は、どこに行くと思う?それはねぇ、

全てインキの中に入り込んでしまうんだよ。つまりね、せっかく新しいインキを

ローラー上に撒いたのに、最初っから多目の水で、新しいインキをダメにして

しまってるって事なんだよ。それじゃ、まともな印刷には成らんよねぇ。

 

「でも、オレ、このやり方で3年以上もやってるし、普通に刷れてますよ~。」

君にとって、君の印刷物の品質は「普通」なのかも知れんけどさ、私の目で

見ると、これには100点満点中、30点程度の、落第点しかあげられない。

今の君の技術力からすれば、その20目盛りアップだけを、やめれば、すぐ

70点以上の品質にまで上げられると思うよ。

 

「でも、20アップしないと汚れます。」・・・だから、最初にインキを出し過ぎて

しまってるんだよ。もっと少な目にインキを出しておけば、20アップなんて、

しなくても汚れる事は無いよ。まだ淡いけど、汚れが、ほんの少し出てるって

言う状態を作ってみてごらん。「それだと、版がダメに成ってしまいます。」

おいおい、そりゃ君の上司が若い頃の、性能が悪い時代の版だろう~。

 

今時の高性能な版で、そんな事は起きないよ。と言うよりもね、君の上司が

ダメにしてしまっていたのは、版ではなくて、インキの方なんだよ。多過ぎる

水が、インキを乳化させてしまって、インキ本来の性能を損ね、地汚れ等を

誘発させてしまっていたんだ。インキも水も、多過ぎるのは最悪だよ。

 

彼は私の話に納得し、次の仕事を20目盛りアップ無しで、やってくれました。

「あッ!これイイですねぇ!この方が断然、刷りやすいッ!」・・・それが一発で

分かるってのは、君に本当の実力が有るって言う証拠だね。品質も全く違う

って分かるかな?「インキの乗りが、ぜんぜん違いますわ~ッ!」

 

凄いねッ、君も今日から、「違いの分かる男」の仲間入りだねッ!ダバダ~♪