印刷技術 湿し水の科学 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

えっと、湿し水の『化学』ではなく、あくまでも 『科学』 でありますので、

例えば、エッチ液開発等の、本物の「化学者」諸氏からのクレーム等は、

一切、受け付けませんので、そこんとこヨロシク(笑)。

 

私がオフセット印刷に携わった40数年前、実は、エッチ液なんてのは、

こりゃ、ど~うでも良い存在だったんです。別に無しなら無しで水道水だけ

でもイイよ~。とか、アラビヤゴムの原液を希釈して入れてたりとかでした。

 

その時代は、世間一般に(つっても印刷業界内だけの話ですが)、ようやく

「PS版」が普及し出した頃だったんです。PS版って「プレ・センシタイズド」

ってワケの分からん言葉の頭文字を取って、そう呼んでいるんですが・・・。

 

「プレ・センシタイズド」=「すでに塗布された」 直訳すると、こんな感じです。

「すでに塗布された版」? つ~事は、PS版が出て来る前の版って言うのは、

「まだ塗布されてない版」って事?・・・何が塗布されてなかったの?

 

これね「感光材」ってのが塗布されてなかったんですよ。・・・なに、それ??

今時は、熱レーザーのCTPで版を作るのが主流ですが、CTPが登場する前

までは、フィルムを使って、そのフィルムと版を密着させ、強い紫外線で版に

絵柄を感光(焼き付け)していました。まぁ完全なアナログの世界ですね。

 

余談ですが、「デジタル」っていう言葉が世の中に普通に浸透する以前には、

「アナログ」っていう言葉は使われてなかったんですよ。デジタルという言葉に

対して「アナログ」という言葉が出て来たって感じです。なので当時の年配の

方達は、アナログってのが覚えられなくて「アナグロ」って言ったりしてました。

 

さて、PS版が普及する前の、感光材が塗布されていない版、こんなもん、

ただの、薄い金属板ですよね。(今はアルミですが、当時は亜鉛の板でした)

この亜鉛の板に、製版係りの人が、自分で感光材を塗って、版が焼けるよう

準備をしなきゃ成らないってワケです。

 

卵白平版なんてのが有りましてね、これは感光材に、卵の白身を使ってたん

ですよ~。・・・卵の白身が感光材って、そんな版、メッチャ弱いやん! そう

なんです。耐刷力なんて、まるでナシ。まぁ数千枚も刷れればイイところです。

 

んでもね、それで良かった時代なんですよ。今のように、自動の給紙システム

(フィーダー)が有りませんでした。紙の給紙は、人間が1枚づつ自分の手で、

印刷機に差し込んでたんですから1時間に2千枚も刷れたら、そりゃスゴイ話

なんです。「紙差し工」って言う、専門職の人が居た時代です。

 

あ、これね、100年も前の話じゃないんですよ。50年位前までは、こんな感じ

の物が多かったと理解して下されば良いでしょう。・・・問題はね、この時代の

版の非画線部なんですよ。亜鉛ですから親水性がアルミより、かなり劣るので、

非画線部が、すぐに感じて汚れてしまうんです。

 

この非画線部の汚れを無くすため、劇薬物のような強いエッチ液を使って、

その非画線部分を、常に腐食させる必要が有ったんです。「腐食させる」って

のを英語で「エッチング」って言いますから、そこから取って「エッチ液」っていう

言葉が定着したって感じですね。

 

亜鉛の版の時代に、凄まじい劇薬物のエッチ液を使っていて、アルミPS版の

時代がやって来た。こりゃもうね、エッチ液なんて、要らねぇんじゃねぇ?って

話に成るワケですよ。・・・ここから10数年後、連続給水システムが普及して、

印刷機が高速化するまでは、エッチ液の存在が希薄な時代が続きました。

 

再びエッチ液の存在が重視される時代、その頃の話もケッコウおもしろいので、

またの機会に書きます。・・・技術は、どんどん進歩し、新しく成って行きますが、

歴史ってのは変わらないので、書いてて楽なんですよ~(笑)。