印刷技術 物理と科学 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

例えば、何かの書類に、印鑑を押す時の事を考えてみて下さい。

その時に、印鑑がカスレてしまって、うまく押せなかったとしたら、

どんな対応策を考えますか?

 

①もっと強く押し付ける。 ②書類の下に適度な軟らかさの台紙を敷く。

③朱肉を沢山付ける。 ④印鑑の汚れを掃除してみる。

 

およそ、こんな感じではないでしょうか?・・・実は、これ、活版印刷での

対処方法と同じなんですよ。印圧を高める。胴の軟らかさを工夫する。

インキを盛る。活字の掃除をする。

 

絵柄が凸に成った、凸版印刷ですから、こりゃ印鑑と全く同じですわね。

全ての事が、目で見て判別可能な、とても「物理的な世界」ですから、

その状態を、シッカリ見てやれば、対処方法も簡単に分かりますわね。

 

物理的な凸版印刷に対して、物理だけではアカンのが、オフセット印刷です。

皆さんも、新入社員研修等で、「オフセット印刷は、油と水の反発で・・・」

なんて言う解説を、聞いたり、または、されたりしておられる事と思います。

 

そうなんですよね。油と水の反発で、インキが着く所と、着かない所を分けて、

印刷絵柄(文字)を作っているんですよね。こりゃ、物理の世界じゃなくって、

科学の世界なんですわ。ですから、オフセット印刷でのトラブルってヤツも、

物理ではなく、科学で対処しないとアカンのですよ。

 

まだ私が、20代後半だった頃、その時、50歳位の、4色機の機長が居まして。

この方は、物理から離れる事が出来ない人でした。インキの着きが悪いとか、

チョッと濃度が足らないなんて時には、印圧をガンガン効かせて、インキをドカッ

と盛って対応していました。

 

ちゃうやろ~。そりゃ水、絞らんとアカンぞ~。・・・なんつって、若僧の私に

言われれば、オッサン、キレますわね。「水、スンぼれば、よンごれるってぇ⤴」

・・・青森出身の方でした。

 

このオッサン、毎日、夜中の2時まで、工場に居ました。・・・2時まで、印刷を

していたワケではありません。チンタラやって、残業代を稼いでいただけです。

事実、私が定時までに仕上げる量の半分程度しか、夜中の2時までに仕上げ

られなかったんですから、残業稼ぎと言われても仕方ないでしょう。

 

なぁオッサン。オッサンの、その機械、もうすぐ下取りで出すぞォ。今度入るのは、

壺ネジでも、モルトンでもない、電気制御の壺と、連続給水システムってヤツだ。

オッサンの頭では使えんシロモノだから、オレが使う。オッサンは断裁でもやれ。

 

かねがね、早く辞めて欲しいと思ってた人でしたので、良いチャンスだと思い、

徹底的に追い出しに掛かったら、なんと、そのオッサンを、工場長として迎えて

くれる印刷会社が有ったのだとか。・・・まぁ、何でもイイから、とにかく、オレの

前から消えてくれ~。

 

オフセット印刷はね、物理ではなく、科学なんですよ。インキを運ぶローラーが有り、

水を運ぶローラーが有る。運ばれて来たインキと水が、初めて出会う箇所が有り、

反発し合う二つの物を、超高速で制御しなければ成らない。初めはアルコールで

対応していたその制御も、研究が進み、エッチ液のみで良好と成った。

 

・・・文章にすると、こんな難しいものに成ってしまいますが、オフセット印刷の科学

としては、これが、最初の一歩です。ここから派生する、様々なトラブルに対応して

行けるように、インキ、エッチ液、ローラー、ブラン、溶剤等が進化して行きました。

 

オフセット印刷を、科学として理解する。材料や資材の進化の過程をキッチリと

理解してやる。そうした事が、技術の幅を大きく広げてくれます。私なんぞの、

また聞きの解説より、エッチ液メーカーさんだとか、ローラー屋さん等、それぞれ

専門の人達から、少しづつでもイイので、話を聞いて、教わって下さい。

 

知ってるうえで、やる事と、知らずにやってしまっている事では、雲泥の差が有り、

技術者としての、その後の成長に大きく関わって来ます。残業稼ぎのオッサンが

偉いッ!と言われる時代ではありません。より良い物を、より速く、より確実に

生産する技術者が、何よりも必要な時代です。興味を持って、いろんな人から

話を聞いて、勉強をしてやって下さい。