ずーっと昔に、一度、書いた事が有るかと思うのですが、もう一度、書きます。
家具職人さんの話です。この方、天皇陛下に献上する家具を造っておられる
職人さんで・・・。と言うと、スゲェお年寄りの職人さんを想像されるかと思うの
ですが、その当時で、50歳くらいの、ケッコウ若い感じの方でした。
「朝食会」ってのが有りましてね。その職人さんを囲んで朝食を食べ、その後、
講演会が有ると言うような催しだったと記憶しています。開催場所はですねぇ、
名古屋キャッスルホテル。名古屋城の脇に有る、超高級なホテルです。
我々、庶民が見た事もないような、超高級な朝食が終わり、講演会も終えて、
質問を受けるコーナーに成りました。こんな高級な朝食会ですから、出席者も、
会社の社長さんだとか、重役さん、役員さんなんて感じで、質問される内容も、
経営に関する事だとか、天皇陛下の事だとか・・・。
そんな中で、私がスッと手を上げて、「私は、印刷技術者です。職人と言う
呼び方には、良い意味では無く、抵抗が有りますので、あえて技術者と自称
させて頂きますが、例えば、天皇陛下に献上される家具を造られる時には、
やはり、全て手造りで製作されるのでしょうか?電動ノコギリ、電動カンナ等、
自動の道具を使うのは、天皇陛下に失礼だと言う思いが有りますか?」
「家具職人という言葉が根付いており、家具製作技術者と言う呼称が無いので、
職人と称していますが、古い流儀に縛られた職人より、私も常に、新しい事を、
柔軟に取り入れられる『技術者』でありたいと思っております。そうした観点から
すれば、自動機を使わない等と言う発想は、全く有りません。」
「職人にせよ技術者にせよ、道具を使って物を造り上げて行く事を生業としています。
であるならば、どんどん進化して行く道具を毛嫌いしてしまっていてはアカンでしょう。
どんなに新しい、自動化の進んだ道具でも、それはあくまでも道具です。道具である
なら、我々技術者は、それを自分の手足のように使い切らなければ話に成りません。」
「天皇陛下への献上品であっても、それを使って、より良い物が造れるのであれば、
一切迷う事なく、絶対に使うべきだ!と言うのが私の考え方です。技術とは、常に
進化させるものであり、進化しないものは『過去の遺物』と呼ばれます。過去の遺物に
しがみ付いて、一切の進化を認めない者の事を、技術者とも、職人とも呼びません。
・・・こんな質問を受けるとは思いませんでした。今日は、とても良い日です(笑)。」
我々が扱う、印刷機械と言う道具も、どんどん進化をしています。インキやブラン等、
様々な資材も、かなりのスピードで進化しています。高性能に成った機械や資材を
相手にして、「オレは20年前から、このやり方をしてるんだから、オレが正しい」等と、
自らを、過去の遺物化させてしまっていては、こりゃ「技術者」ではないんですよ。
新しい道具(機械や資材)の性能を、自分の手足のように使い切る。それが本当の
技術者。その為には、自分が苦労して積み上げた技術を、全て捨て去らなければ
ならない事も有りますね。脱皮して、殻を打ち破って進化する。技術を追究する為
には、そんな事が必要な場面も、イッパイ有ります。
新しい技術が、顧客のニーズに応え、会社の繁栄に繋がる。そして何より、新しい
技術が、自分自身の繁栄に繋がり、後進達の道標に成って行くのです。
我々技術者って言うのは、その進化の歴史の中で、一つ一つ、道標を残してゆく者
なのだと、そう考えています。