印刷Q&A 回転数と湿し水 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

●質問

印刷機械の回転速度と湿し水に関しての質問です。
最高速度が15,000s/h機械で、普段は12,000s/h位で使っているのですが、
刷込んでいくうちに網点が絡んだり、細い抜き文字が埋まってきたりで、水を上げる。
この繰り返しの結果、乳化やローラーはげが発生することが珍しくありません。
先日、試しに8,000s/hで20,000通したところ、網点の絡みや抜き文字の埋まりなど
全く発生せず、水目盛もスタート時と変化しませんでした。
回転が遅い方が、じっくり・正確に版面に湿し水を供給できる感じはイメージできる
のですが、12,000s/hでも水目盛の上昇を抑えるには、どういった点を見直すべきか
アドバイスをお願いします。

因みに、H液濃度:(1%~3%に希釈して使用するH液を)2%添加
チラ―装置なし、エアコンあっても効果なし・加湿器なしで、温度・湿度の管理は
全くできていない工場です。

●回答

質問、ありがとうございます。広島県の方ですね。以前は、毎年、広島でセミナーを
させて頂いていたんですが、最近は呼んで頂けなくて(涙)チョットだけ、この場を
お借りして、広島県にアピールをば・・・「正樹さ~んッ!ほら、広島の方から質問が
来ちゃいましたよォ~。やっぱ、1年に1度くらいは呼んで下さいよォ~!」

さてさて、印刷機のスピードと湿し水に関してですが・・・。

「回転が遅い方が、じっくり・正確に版面に湿し水を供給できる感じはイメージできる
 のですが、12,000s/hでも水目盛の上昇を抑えるには、どういった点を見直すべきか
 アドバイスをお願いします。」

との事なのですが、今時の湿し水は、非常に性能が良いですから、湿し水の供給自体は、
1万5千回転でも、充分に追従出来ていると思うんですよ。事実上、輪転機なんてヤツは、
1時間あたり、3万~4万回転以上のスピードで印刷をしていて、それでも正確な印刷が
出来てるワケですから、湿し水が、どうとかを考える必要はないかと思います。

問題はね、インキの方なんですよ。インキって、温度変化に弱いじゃないですか。例えば
冬の寒い日なら、カチカチだし、夏の暑い日ならタラタラですよね。・・・チョットここで、
イメージしてみて下さい、カチカチのインキと、タラタラのインキでは、どっちが良いか?

夏場の暑い日に、冬用のSとかLタイプの、タラタラのインキで刷ったらどうなります?
汚れが止まらなく成って、網点がからんで、抜き文字が埋まってしまいますよね。
・・・もう、お分かりですね。問題は、湿し水ではなく「温度」なんですよ。

正直に言わせて頂くならば、冷却チラーの無い機械で、温度管理も出来てない工場で、
1万2千回転でロングランをやったら、そりゃトラブるのは当たり前ですわ。
その時の、ローラー温度とか、版面温度とか、スゴい事に成っていそうな気がします。

昔は、ずい分、高価だったんですが、今時は1万円前後で、非接触型の温度計が入手
出来るように成りました。レーザーポインターの当った所の温度を、一瞬で表示して
くれると言うスグレモノです。是非、こいつを使って、版面やローラーの温度を、
印刷中に計測してみて下さい。(回転中のローラーや版胴の温度も測れます)

ちなみに、理想的な温度は、ローラー上で25℃、版面上で15℃です。

今回の質問に対して、一番の解決策は、冷却チラーを入れて、エアコンを設備して、
加湿器も設備する。って事に成るのですが、まぁそりゃ無理ですわね。でも最低でも
しっかりしたエアコンだけは、なんとか設備するべきだと思います。

あとは、硬めのインキを使う事ですね。刷りはじめから硬いのを使ってはアカンと
思いますが、室温や機械の温度上昇に伴って、硬いインキを入れて行くって言うのは、
けっこう昔からやってる対策なんですよ。