学会・国際会議での会場内託児(運営側)についての覚書 | 埼玉的研究ノート

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先日主催した国際会議では、会場内に託児所を設け、海外からの登壇者のお子さん含め、2家族のお子さんの託児をした。会場内託児の設置は今回が初めてではなく、事務局をしていたロシア史研究会の年次大会時に、これまで2回実施したことがある。それを含めて運営側での託児所設置経験についてメモしておきたい。総合的に見た場合、これは決して慈善事業のようなものではなく、会議を実り多いものにすることを望む主催者自身を含め、研究者集団にとって有効性は非常に高いと考えるからである。

 

今回は、招聘を決めた段階では個人的なつながりのなかった研究者から、シングルマザーなので子どもと一緒に来なければならないという相談を受けたことから設置を決めた。ご本人はこちらの対応をアテにしていたわけではなかったが、主催者の利益としても、登壇者に安心して会議に集中してもらうためには必要なことであると判断した。学振に問い合わせたところ、科研費で子どもの旅費は出せないが、託児の費用については出すことができるとの回答を得た。

 

せっかく設置するので他の登壇者にも必要な場合は利用してもらうことにした。その結果、もう1件、ご夫婦で同分野の研究者である方々から利用申請があった。ロシア史研究会の場合もそうだったように、夫婦で研究者というケースは少なくない。たとえ分野は別でも保育園が休みである土日に学会というケースは多いため、子どものためにどちらかが出席を諦めざるをえないことになる。今回は平日開催だったが、都内在住でない場合は普段の保育園に預けられないことから同じことになる。一日ベビーシッターを雇うのは数万単位でお金がかかるので、緊急事態以外は二の足を踏むのが普通だろう。今回も託児がなければ、数少ない同分野の研究者である配偶者の方(登壇者ではない)の出席は難しかったかもしれないことを考えると、やはり主催者にとっても託児所の設置は利益になる。

 

ステマと誤解されるとアレなので業者名は伏せるが、今回とロシア史研究会の計3回とも同じ業者を利用した。ロシア史研究会で大会時の託児所を設置しようという話になったときに、委員仲間の方に業者を選定していただいた。2017年の時点で、都内で9歳ぐらいまで対応可能ななかでは3社ぐらい有力なものがあり、結果的に料金が中間の業者を選んだ。託児中に万一事故があった場合は、業者が保険で対応する。

 

業者を利用する際の主な要領は次のとおり:

・見積もりを出してもらい、正式な依頼をかけた後、契約書を取り交わす<1か月前まで>

・託児会場についての情報と、実際に預かる子どもについての情報を(「お子様シート」というフォームで)業者に提供する<数日前まで>

・前日までに、託児会場で使用する用品セットの段ボールを受け取る。会場の床が固い場合はマットも借りることになる(別料金)。

・当日は、託児開始の15分前までにシッターさんが来て準備をし、時間になったら託児開始。

・昼食時、食事は親が与える。

・終了後、サインをして(その日で終わる場合は)上記用品セットをしまった段ボールを受け取る。こちらで翌日あたりに返送作業をする(着払い)。

・請求書と託児レポートが届く。

 

業者に支払う費用は、大雑把には、1人を1日(朝10時から18時まで、など)預かる場合、3万弱、3~4人で5万強、といったところ。正確には、子どもの人数ではなく、来てもらう保育士の数で料金が決まってくる。年齢によって1人の保育士が見ることができる人数が異なり、子どもの年齢が低いほど必要な保育士は増える傾向にある。この業者の基準は以下の通り。

 

0、1歳児…シッター1人に対して2名
2、3歳児…シッター1人に対して3名
4歳児以上…シッター1人に対して5名

 

つまり、全員が1歳以下の場合、例えば3人託児する場合は保育士が2名必要になるので1日5万強だが、全員が4歳以上であれば、5人までであれば3万弱で収まることになる。

 

料金の内訳は、基本料金として保育士1人1時間2,320円で、9~18時以外の時間は割増で2,900円(以上税別)、そのほか、保育士の交通費と、上記の段ボール箱の送料だ。

 

また、英語対応可能なシッターさんを手配するには、1時間あたり200円(税別)割増になる(これはすごく良心的な値段だと思った)。

 

なお、東京大学駒場キャンパスでは、通常の教室は託児利用を認めていないため、学生の課外活動に使用する畳の部屋を借りることになり、これに1日4000円程度かかる(なお、同キャンパスでは、大半の教室はどのみち使用料がかかる)。大学によっては特に規定がなく、通常の教室を使うこともできる。

 

その他の注意点としては、託児の開始と終了が、学会・会議で主催者が一番忙しい時間に重なるので、事前に他の人にその対応をお願いする必要があるということぐらいだろうか。

 

過去3回とも特に困ったことはなく、費用を別にすれば、とても手軽だと思った。私の妻は会社員で土日が休みなことから(また今回の会議は平日だったことから)まだ私自身はこの業者の託児は利用していないが、見聞きした感じとしては、同じく1日限りの利用である病児保育と同様だと思った。いずれの場合も子どもはすぐに保育士さんに慣れるようで、キャンパス内を一緒に散歩したり、お絵描きをしたり、基本的には楽しんでいるようだ。

 

最後に費用をどう考えるか。いずれの場合も、子どもを預けない限り学会・会議に参加できない方が利用している。学術研究の要の一つである会議の最大のポイントは人である。だから高いお金をかけて海外から人を招聘したりもする。数万円というのは、国内の比較的近場の研究者を呼ぶ場合にかかる費用である。必要な人を呼ぶ経費と考えるならば同じことであり、内訳が旅費か託児費かの違いにすぎない。必要であれば札幌在住の人を呼び、東京在住の人にほとんど出さない旅費をその人にだけ出すことがとりたてて特別待遇とは言われないのと同様、託児がないと参加できない人にその費用を出すことを特別待遇だと言う理由はない。

 

なお、ロシア史研究会では、かなり前から託児を行っている日本中東学会を参考に、利用者の「3割負担」という感じで、1日一律5000円を利用者に負担していただいている。これは学会への参加は、登壇者以外は主催者からの依頼ではなく自主的なものであるということから正当化されると考えた。一方で、専門が近い人に学会に参加してもらうことは学会にとっても利益になるから、ある程度学会が負担することも合理的だろう。

 

そういうわけで、運営側で託児を利用することを検討される方は、お気軽にご相談ください。