「閑話導入」・ふと休みの雑談2/1: 『君達はどう生きるか』がなんで今頃売れ始めたの?  | 太郎椎茸のブログ

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 今から吉野源三郎氏が約80年前に小説(哲学的)として書いた『君たちはどう生きるか』という著作が、昨年漫画化されたこともあってか爆発的に売れているという。知的好奇心の強い少年の「コペル君」と彼の亡き父親の代わりに見守る教養ある「おじさん」との心温まる交わりを通して、生きる意味を深く、しかし平易に説いた児童向けの教養小説である。それが、なぜ今頃100万部を超えてなお売れ続けるのか。

 

 それは、「人間としていかに生きるか、どのように生きていけば良いか」といった昔も今も変わらない人生の普遍のテーマに真摯に向き合うコペル君とおじさんの姿勢や言葉から、読んでいるうちに自然と自分の頭で考えるように書かれていることが、多くの読者を得ている原因であろうと思う。青少年のみならず、大人であっても人生を見つめ直すきっかけとなる本だと思う。

 

 過日より私のブログで5回にわたるシリーズで「日本精神の好(高)評価の根拠を探る」のテーマで、諸外国の人々からなぜ日本人のあり方・生き方が高評価を受けてきたのかの理由を探っているが、その精神性の素晴らしさが日清・日露の大陸侵略から植民地支配、さらには第二次世界大戦へと自国の繁栄のために他国を犠牲にする軍国主義の中で、更には第二次世界大戦敗戦後の復興の努力は可とするものの高度経済成長の中で精神的な価値よりも物質的豊かさの追求、拝金主義の台頭といった傾向が強まり、日本的精神の美・善が失われ、精神的にも言動にも劣化が見られ醜くなってきている。

 また、江戸幕府による仏教弾圧から明治時代の廃仏毀釈の嵐の中で日本人の心のあり方・生き方に多大な影響を与えてきた仏教が形骸化し、江戸時代の武士道精神に多大な影響を与えた儒教もまた明治時代に政府の抑圧を受けて本来の倫理的な多様な影響は陰を薄め、天皇崇拝・天皇制国家を支える「忠・孝」精神のみが政治利用されるようになった。明治新政府は、「天皇制国家」を形成するために「天皇の神格化」の実現と、「富国強兵政策」の推進のために西欧化を図るなかで、それまでの日本人の美徳の基盤となった仏教と儒教を弾圧したのである。

 ニーチェが『喜ばしき知識』のなかで「神は死んだ」と語らせているが、明治政府も天皇制維持に繋がる「神道」のみを残して、「仏教」も「儒教」も殺したのである。儒仏に代えて「天皇崇拝」をもってきたが、われわれ日本人の「生き方・あり方」に根本から深く影響を与え導く思想とはとうていなり得るものではなかった。また、戦後の高度経済成長も国民に豊かで便利な生活をもたらしはしたが、利益追求、利己主義、拝金主義が台頭し、かつてヨーロッパ人の宣教師などから「(日本人は)生活は貧しいが、心は豊かで高貴である」と評価された美徳は劣化し、さらに「人間として生まれて、いかに生きれば良いか」といった生き方・あり方に関わる問いや心の苦しみを克服する導きを与えてくれる思想を失ってそれに代わる思想を見いだせないままで、また自分の内面と向き合い思索するゆとりも方法も見失って混沌とした中にある。

 

 「君たちはどう生きるか」のなかでコペル君とおじさんは向き合って交わり、人生の根本問題について共に追求し思索している。しかし現在の日本社会では習い事や塾の多忙さ、孤遊としてのゲームや孤食、受験戦争、家族関係の交わり不足による親から子への人生観・価値観・愛情の伝達不足、地域社会の人的関わりの希薄化等々、家族や地域社会から子どもが学ぶことは少なく実体験を通して学ぶ機会も減少して、SNSやマスコミやという受容的(相即的・相互的でない)あるいはバーチャルな学びが増えている。

 コペル君に向き合ってくれる大人である「おじさん」が今の子どもにはいないのである。大人もまた子どもと向き合う自信がない(自分の内面と逃げずに向き合った体験がない)ため、自分に代わって吉野源三郎氏に逃げているとも言えよう。

 それはそれで何もしないよりは遙かに良いし、こどもが読んで自ら考える機会を与えることとして可である。難関校へ進学していわゆる良い企業に就職するとか、六本木ヒルズ族になるとか、有名人やアイドルになるとか、ユーチューバーで稼ぐとかといった外面的な成功だけではなく、人間的に素晴らしい価値、内面的な成長にも目を向けさせる事が重要である。そのためには、まず大人が内面の精神的製陶を図る必要があろう。震災の際のマナーのよさ・ボランティア精神、外国人旅行者が評価する「おもてなしの心」、親切心、清潔さ等がまだ残っている今こそ日本人の精神性の高貴さ・美を回復しないと物は豊かでも精神性の、倫理性の低下に歯止めがかからなくなるであろう。

 

 そこで、僭越だが青少年にオススメの本を紹介したい。日本人に限って紹介します。

 

 まずは、『14歳からの哲学』(池田昌子)。30テーマについて「考える」ための教科書と言えるか)

『<子ども>のための哲学』(永井均。講談社現代新書)。悪いことをしたら何故いけないか、何故私は存在するのか、などの疑問を考える。『一番優しい哲学の本』(沢辺有司。彩図社)。ソクラテスからニーチェまで、中学生も解る哲学解説書)

『人生論ノート』。(三木清。新潮文庫・中公文庫)。人生に関して23のテーマで述べてある。やや古いが、現在も変わらず価値高い内容。

『哲学入門』(三木清。岩波新書)。これも素晴らしい内容だが、高校生以上くらいじゃないと。難しいかな)

『夢をかなえるゾウ』(水野敬也)。万人向きではないが、おもしろい)。『それでも僕は夢を見る』も書いている。

『自分の人生を後悔で終わらせないために』(本田。健。大和書房)。自分らしさ、幸せなど生き方を変える本。やや大人向き。600万部突破)

『生き方』(稲盛和夫)。世界的大企業を創業した人物の人生哲学。これも大人向き。

『上京物語』(喜多川泰)。人生を変えた、父の五つのおしえ。本当の幸せとは? やや万人向きではないか。

『今したいことを今しよう』(中谷彰宏。POP文庫)。読み終えるのに手間がかからない。

『若さに贈る』(松下幸之助。PHP文庫)。パナソニックの創業者で有名な人物が若者をターゲットに書いた本。

『まんが 哲学入門』(森岡正博)。マンガでとっつきやすい。

『ヨーロッパの思想入門』(岩田靖夫。岩波ジュニア新書)。名著だが、一般的には高校生以上向きか。 

 

 とりあえず以上です。書物との出会いも「縁」なので、私が好書と思っても好まない方もあるでしょう。まずは、書店に行って手にとって見て下さい。パソコンだのSNSの時代だのと言われますが、紙に印刷された書物を手にとって読書することは素晴らしいですよ。本が嫌いな方も慣れの問題だと思います。

 

 それでは、ごきげんよう。