チャイコフスキー / 五嶋みどり「ヴァイオリン協奏曲」 | 翡翠の千夜千曲

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Midori • Tchaikovsky Violin Concerto In D Major (+ backstage and rehearsal footage)

 

 

 

 

  この動画の面白さは、勿論演奏にもありますが、楽屋の様子やリハーサル風景、そして滞在先か自宅かは分かりませんが自室でくつろいで質問に答えているみどりさんの素顔が見られます。おまけに、クラウディオ・アバドもまだ若いので、何とはなしにうれしくなります。

  さて、これまでチャイコフスキーは結構な数を取り上げてきました。しかし、彼の人生を辿ると決して楽なものではなかったことが知られます。例えば、チャイコフスキー初期の作品ピアノ協奏曲第1番は、現在は冒頭の部分などだれでも思い起すことができるほどポピュラーになっていますが、作曲された際にはニコライ・ルビンシテインが「演奏不可能」と突っぱねられ、初演ができないのではないかとさえ思われました。最終的には、ルビンシテインはこの曲を世界中持って歩くほどのレパートリーとしました。

 同じように今では非常に有名なヴァイオリン協奏曲も、名ヴァイオリニストのレオポルト・アウアーに初演を頼みますが、「演奏不可能」と初演を拒絶されているのです。そのためこの曲はアドルフ・ブロツキーのヴァイオリン、ハンス・リヒター指揮で初演されています。おまけに聴衆の反応もあまり好ましいものではありませんでした。更に追い打ちをかけるように、評論家のエドゥアルト・ハンスリックからは「悪臭を放つ音楽」とまで酷評されます。もっとも、但し書きみたいに「プロポーションがあり、音楽的で、天才性が欠けているわけではない」とは書き添えてあったようですが・・・。

 けれども、捨てる神あれば、拾う神あり。この作品の真価を確信していたブロツキーは各地でヴァイオリン協奏曲を演奏し次第に好評を得るようになっていきます。その後、アウアーもこの曲を正しく評価し、自身のレパートリーにも取り上げるようになりました。その結果、現在では4大ヴァイオリン協奏曲の仲間入りをしています。

 なお、古くからアウアーが大幅にカットを施した版による演奏が一般的だったが、近年のチャイコフスキー国際コンクールではこの曲を演奏する場合にノーカットを定めている。また、その他でも近年は、ロシアのヴァイオリニストを中心にノーカットで演奏を行うケースが増えている。カット無し完全版のCDは、1979年録音のギドン・クレーメル独奏、ロリン・マゼール指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のドイツ・グラモフォン盤が日本で最初にリリースされている。

 今、テレビでは「リバーサル・オーケストラ」というドラマが進行中ですが、主人公の天才少女と呼ばれた谷岡初音はあることをきっかけにヴァイオリンが弾けなくなります。その曲が、このヴァイオリンコンチェルトなのです。練習は細々続けてはいますが、生家のある西さいたま市役所・広報広聴課に勤める公務員になっています。これも、ひょんなことから市のポンコツオーケストラ児玉交響楽団のコンサートマスターにスカウトされます・・・。

 ドラマは、現在進行中ですのでどちらをご覧いただくとして、「リバーサル・オーケストラ」とは何ぞや。私は以前写真に凝っておりました。山岳写真が好きで、カメラを担いで良く山に登りましたが、ここぞという一枚はリバーサルフィルムで撮ります。このフィルムは発色が豊かで鮮明なのです。ある程度年齢のいっている方はお判りでしょうが、昔幻灯機(古いねえ、今はパワーポイントかな)というものでスライド写真を卒業を祝う会のようなもので見られた方がおいでと思います。他のフィルムも似たようなものですが、いわゆる「ネガ」です。「リバーサル」とは、反転、逆転を意味します。つまり、ポンコツ交響楽団が一皮むけて逆転、一流交響楽団を凌ぐオーケストラに成長すると言うサクセススストーリーだろうと思います。これは、チャイコフスキーの協奏曲が辿った苦難の道とかぶせてあるのでしょう。

 

<構成>

第1楽章 アレグロ・モデラート − モデラート・アッサイ ニ長調
ソナタ形式。 18分ー19分。オーケストラの第1ヴァイオリンが奏でる導入主題の弱奏で始まる序奏部アレグロ・モデラートでは、第1主題の断片が扱われる。やがて独奏ヴァイオリンがゆったりと入り、主部のモデラート・アッサイとなる。悠々とした第1主題は独奏ヴァイオリンによって提示される。この主題を確保しつつクライマックスを迎えた後静かになり、抒情的な第2主題がやはり独奏ヴァイオリンにより提示される。提示部は終始独奏ヴァイオリンの主導で進む。展開部はオーケストラの最強奏による第1主題で始まる。途中から独奏ヴァイオリンが加わりさらに華やかに展開が進み、カデンツァとなる。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と同様に展開部の後にカデンツァが置かれており、すべての音が書き込まれている。カデンツァの後再現部となり、オーケストラと独奏ヴァイオリンが第1主題を静かに奏でる。徐々に音楽を広げて行きながら型通りに第2主題を再現する。ここから終結に向け音楽が力と速度を増してゆく中、独奏ヴァイオリンは華やかな技巧で演奏を続け、最後は激しいリズムで楽章を閉じる。
第2楽章 カンツォネッタ アンダンテ ト短調
複合三部形式。6分ー7分。管楽器だけによる序奏に続いて独奏ヴァイオリンが愁いに満ちた美しい第1主題を演奏する。第2主題は第1主題に比べるとやや動きのある主題で、やはり独奏ヴァイオリン主体で演奏される。第1主題が回帰してこれを奏でた後、独奏ヴァイオリンは沈黙し、管弦楽が切れ目なく第3楽章へと進む。
第3楽章 アレグロ・ヴィヴァチッシモ ニ長調
ロンドソナタ形式。10分ー11分。第1主題を予告するようなリズムの序奏の後、独奏ヴァイオリンが第1主題を演奏する。この主題はロシアの民族舞曲トレパークに基づくもので、激しいリズムが特徴である。しかし演奏者によって全て演奏されないこともあり、一部省略する録音や演奏もある。やや速度を落とし、少し引きずる感じの第2主題となるがすぐに元の快活さを取り戻す。だが、この後さらにテンポを落とし、ゆるやかな音楽となる。やがて独奏ヴァイオリンが第1主題の断片を演奏し始めると徐々に最初のリズムと快活さを取り戻し、第1主題、第2主題が戻ってくる、最後は第1主題による華やかで熱狂的なフィナーレとなり、全曲を閉じる。

 貴方は、今何かで落ち込んでいませんか。人生は最後までわかりません。貴方にも逆転劇は起きるかもしれません。勿論、行動なしにそれは起きません。

 

※ 以前の記事

① チャイコフスキー「 ヘルヴィムの歌」

② チャイコフスキー 「交響曲第4番」ヘ短調 作品36 

③ チャイコフスキー弦楽セレナーデを聴き比べる

④ チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」

⑤ ホルンの出番です⑥ ホルン吹きの憧れ? チャイコフスキーの交響曲第5番より第2楽章

⑥ チャイコフスキー 「眠れる森の美女」組曲

⑦ 本物はどっちだ チャイコフスキー「ロココの主題による変奏曲」 

<お知らせ>

※ 演奏会のご案内7 DANCIG FLUTE

 

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 他

五嶋みどり 、 クラウディオ・アバド 、 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 、 ロバート・マクドナルド

【曲目】
(1)チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
(2)ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品99
(3)チャイコフスキー:「なつかしい土地の思い出」から メロディ 作品42-3
(4)ショスタコーヴィチ:24の前奏曲作品34から 第16番・第24番
【演奏】
五嶋みどり(ヴァイオリン)
クラウディオ・アバド指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1)(2)
ロバート・マクドナルド(ピアノ)(3)(4)
【録音】
1995年3月(1)
1997年12月(2)
ベルリン(ライヴ)
1992年8月(3)(4)
ニュージャージー