ホルンの出番です⑥ ホルン吹きの憧れ? チャイコフスキーの交響曲第5番より第2楽章 | 翡翠の千夜千曲

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  チャイコフスキーの交響曲第5番より第2楽章

  交響曲は、練習ならいざ知らず、一部分だけ吹くとか聞くとかいうのは、一種の犯罪であって(ちょっと大げさじゃねえの・・・)、一つの塊で捉えることによって、ある部分の意味や存在価値、所属感のようなものの理解につながると思われます。ですから、この一連の文章(このページ)は、チャイコフスキーの第5番の交響曲を知るためのお勉強の資料と言う捉え方を致します。出処進退を明確にするため資料はそのまま使用し、場合によっては資料名を記すものとします。

  さて何故、この2楽章だけを取り上げたかと言いますと、第1に、ホルン吹きには憧れの楽章らしいという噂を聞きまして、ホルンの部屋にはこの資料が必要と考えました。第2は、私はあまりこの曲が好きではなかったこともあり、研究したり調べたりしたことがなかったという理由に寄ります。まあ、人のふんどしで相撲を取ろうと言う魂胆です。

 

  ニ長調、 三部形式。多少の自由さをもつアンダンテ・カンタービレという指示がある。 デュナーミクは pppp から ffff までと全楽章の中で最も幅があり、テンポの変化も全楽章の中で最も多い。美しい旋律と劇的な展開をもった楽章であり、オペラを器楽に移し替えたような趣がある。
  曲は8分の12拍子で開始される。弦楽器の低音による静かなコラール風の前奏に続き、ホルンのソロにより主旋律が提示される(下の譜例)。甘美かつ抒情的であり、チャイコフスキーの旋律美が発揮された名旋律である。

次に嬰ヘ長調に転調しオーボエとホルンが副次旋律をカノン風に提示するが、直ちに再び第1主題の登場となる。今度はチェロが旋律を担当し管楽器が対旋律を絡める。間もなく、弦楽器が副次旋律を情熱的に奏でてクライマックスを築く。
  中間部に入るとテンポがやや速くなって(モデラート・コン・アニマ)4分の4拍子となり、新しい嬰ヘ短調のノスタルジックな旋律がクラリネットによって奏でられ(下の譜例)、ファゴットに受け継がれる。

  音楽が加速して大きく盛り上がると、クライマックスで「運命の主題」が力強く回帰する。休止のフェルマータを挟んで再現部となり、ピッツィカートの伴奏にのって第1ヴァイオリンが主旋律を奏でる。なお、単なる再現ではなく伴奏や対旋律などが変化している。やがて主旋律は感情を強めてゆき、その頂点で副次旋律が弦楽器により fff で歌われ、さらに ffff のクライマックスが築かれる。そこから音楽は次第におさまっていくが、突然、「運命の主題」が fff で強奏される。コーダでは弦楽器が副次旋律の断片をカノン風に奏でながら静まっていき、クラリネットのソロにより楽章は pppp で静かに閉じられる。            ウィキペディア

 

チャイコフスキー 交響曲第5番ホ短調作品64 第2楽章 スヴェトラーノフ:ロシア国立交響楽団

 

  一般には(複合)三部形式を応用した構成と言われていますが、細かく分析すると実はかなり複雑です。柔らかに和音を紡ぐ序奏の後に有名なホルンの主題がたおやかに奏でられます。続いて、オーボエによる副主題が束の間の夢のように過ぎ去ります。
そして直ぐにまた主要主題が今度は弦で再提示され、盛り上がったところで"運命の主題"を暗示します。続く副主題は、ロシア風のワルツの色合いが濃厚です。ここまでを主部と捉えるのが一般的でしょう。
  続く中間部に相当する部分では、クラリネットによる寂しげな中間主題から始まり、発展的に推移していきます。このあたりの筆致は、単なるメロディー・メイカーではないチャイコフスキーの構造的手腕の面目躍如といった感じです。そして、"運命の主題"が強烈に回帰した後、主部に戻ります。主要主題が変奏曲風に再現され、そしてまた副主題がワルツ風に高らかに歌われます。そして、楽章を閉じると思いきや、突然"運命の主題"が荒々しく回帰して聴き手の度肝を抜いた後、副主題が穏やかに奏でられて静かに音楽を閉じます。     松尾祐孝氏の文章より

 

 

  今回は、ネット上だけの資料です。感想みたいなものはありますが、分析は余り見つけられませんでした。ですので、私なりの分析を少しばかりしておきましょう。

  ホルンパートを中心に改めてスコアーを見ますと、音が薄い響きから次第に厚い響きになっていくのが分かります。ホルンのソロの主題にまとわりつくようにクラリネットが動きますが、ホルンの旋律の一部を動機にして動いています。ところが、Con motoでオーボエが出てくると、今度はホルンがオーボエの音型を反復するようになります。

  TempoⅠになると、ホルンは表舞台から遠ざかり内声の和音づくり、そしてリズムを刻む動きになります。116小節 animando で再び第1主題を回想するのですが、3小節余りで再び消えていきます。あとは、リズムと和声を補充し終盤に向かいます。

  演奏面でいいますと、クラウディオ・アバドが12分余り、カラヤンが14分少々、スヴェトラーノフは15分43秒ですから、そうとうねちこくやってます。

  で、結論。あこがれる気持ちはよく分かります。しかも、ソロですからね。・・・しかし、ホルンのやりがいとしては4番の4楽章の後半の充実度の方が高くはありませんか。勿論気持ちは分かります。私としてはですね、勇気をもって愛を伝えたのに、良い子ねほらほら坊や飴あげるから我慢しなさいてな感じですね。

  スヴャトラーノフがN響を指揮した時の実況録音場を買った人がこんなことを書いています。

 ・・・前略 一番ノスタルジックだけど、心に響いて来ないカラヤン&VPOのホルン、全体的には辛口だけどここのホルンは、何だかイタリアン・テノールを聴いているような明るく不釣り合いなムラヴィンスキー&レニングラードP……それに比べこのN響の演奏で聴くホルンは、エモーショナルでありながら、すべてを包み込むような滋味に溢れ、染み込むような感動を与えてくれる。
  また、ホルンに続いて、舞うように良く歌うクラリネットやオーボエの名人芸…本当にN響って上手いと思うし、心を動かされる。
第2楽章に入る前、客席側に振り返り、『プリンセス・ダイアナに捧げます…』と言ったスヴェトラーノフさんの想いが届けられたのか、この曲の演奏後、時間をか

けてN響メンバーを称えたのも、至極当然のように思える。
 ホルンの※松崎さんに至っては前に呼び、固辞しようとするのを何度も促して、指揮台に立たせてまで称賛したスヴェトラーノフさん。実に感動的な演奏会だった……そんな感動が詰まっているこの演奏こそ、出来得る限り良い音で聴きたいのである。

   ※松崎裕さん 元NHK故郷楽団ホルン主席 現在上野学園大学音楽学部音楽学科客員教授

 

 

 

チャイコフスキー:交響曲第5番
スヴェトラーノフ(エフゲーニ) (アーティスト, 指揮), & 2 その他  形式: CD