ホルンの出番です258 ニーノ・ロータ「山の城」 | 翡翠の千夜千曲

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        Nino Rota - Ballata Castel del Monte - Ayso - Urso

 

 

    

     CASTEL DEL MONTE - Horn Solo - Nino Rota, arr. Marco Somadossi

Performance: Banda da Armada Portuguesa Solo Horn: Corporal Luís Moreira Conductor: Délio Gonçalves

 

 

 

 「何いニーノ・ロータだって、ホルンの曲?えホントかよ」そんな声が聞こえてくるかもしれません。本人は「本業はあくまでクラシックの作曲であり、映画音楽は趣味にすぎない」と言っていたそうですから、そうなんですよきっと。

 私は、ニーノ・ロータと言えばやはり「道」です。何とも切なく、そして限りなく優しい思いになります。ジェルソミーナとザンパノの物語は、フェデリコ・フェリーニ監督の著書「私は映画だ / 夢と回想」にこんな言葉でも語られています。

  • 近代人としての私たちの悩みは孤独感です。そしてこれは私たちの存在の奥底からやってくるのです。どのような祝典も、政治的交響曲もそこから逃れようと望むことはできません。ただ人間と人間のあいだでだけ、この孤独を断つことができるし、ただ一人一人の人間を通してだけ、一種のメッセージを伝えることができて、一人の人間ともう一人の人間との深遠な絆を彼らに理解させ —— いや、発見させることができるのです。
  • まったく人間的でありふれたテーマを展開するとき、私は自分で忍耐の限度をはるかに越える苦しみと不運にしばしば直面しているのに気づきます。直観が生まれ出るのはこのようなときです。それはまた、私たちの本性を超越するさまざまな価値への信仰が生まれ出るときでもあります。そのような場合に、私が自分の映画で見せたがる大海とか、はるかな空とかは、もはや十分なものではありません。海や空のかなたに、たぶんひどい苦しみか、涙のなぐさめを通して、神をかいま見ることができるでしょう —— それは神学上の信仰のことというよりも、魂が深く必要とする神の愛と恵みです。

 ニーノ・ロータのホルンとピアノのためのバラードCASTEL DEL MONTE 「山の城」は1974年イタリアのホルン奏者ドメニコ・チェッカロッシのために作曲されています。この作品は1976年にオーケストラ版に編曲されています。山に聳え立つ城を表現した主題の音形が象徴的です。

 カステルデルモンテは、プーリアの西部ムルジの高原にシチリア王国の皇帝フリードリヒ2世によって建てられた13世紀の要塞です。一般的に「城」と呼ばれていますが、印象的な建物の正確な機能はまだ不明です。建築的に典型的な軍事的要素や堀がなく、非戦略的な位置に配置されているため、実際には建物はおそらく要塞ではありませんでした。それが吹き込まれている強い象徴性のために、建物は一種の寺院、あるいはおそらく一種の知識の寺院である可能性があるという仮説が立てられています。いずれにせよ、それは壮大な建築作品、洗練された数学的、幾何学的および天文学的知識の統合としてそれ自身を明らかにします。

 映画音楽と言えば、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが思い出されます。ユダヤ人だったことからナチスドイツの手から逃れるためにアメリカに亡命し、モーツアルトの再来と言われながら、生活のために映画音楽を書いたことで、「映画に魂を売った下等な作曲家」というレッテルを張られてオーストリア楽壇から追いやられたのでした。

 多くの作曲家がいわゆる純音楽の他に映画や舞台の音楽を書くことは良くありましたが、彼の時代はまだクラシックの音楽が唯一無二の芸術で、映画や舞台の音楽は邪道として評価の低い存在だったのです。それゆえ、冒頭のニーノ・ロータの言葉があるのでしょう。しかしながら、コルンゴルトの存在と音楽によって、現在のジョン・ウイリアムズの存在があることをぜひ知って頂きたいと思います。

 そういう過去を踏まえた上でも、ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネの存在はイタリアだけではなく貴重な存在として語り継がれるものと思います。

 カステルデルモンテのイメージは、ロータが属していた難解な科学ファンクラブでも話題にされ、そこではこの建物が邸宅の象徴性をそなえているという提案を音楽的に強調することに加えて、狩猟シーン、宮廷舞踊だけでなく、必要に応じて戦争のようすなども書き加えられています。

 1974年にさかのぼるこの作品は、同じロータの指揮の下、ランチアーノで初めて演奏したドメニコチェッカロッシに捧げられました。執筆において、ロータは間違いなくチェッカロッシの珍しい技術的な側面を考慮に入れ、楽器の技術的可能性を十分に活用した作品にしました。
 ホルンの曲としては、さほどの困難さはありませんが温かく叙情豊かに演奏出来ればいいと思います。箸休めと言ったら本人に怒られそうですが、堅い現代作品を並べたてる演奏会では耳と精神が緊張を強いられますが、時にはこんな作品も演奏されてはいかがですか。

 

※ 以前の記事

・ フルートの出番です107 ニーノ・ロータ「フルートとハープのためのソナタ」

 

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【輸入楽譜】ロータ, Nino: 山の城

 

Il Corno Italiana: Zuk(Hr)

ホルンのためのイタリア音楽
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