格別のフライト | 3年前のしこうの楽しみ

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多くの場合、飛行機は当たり前のように飛んでいく。
もちろんそれは気候条件が整っているから飛ぶ許可がおりているわけだけれど、様々な技術の進展により飛ばないことの方が珍しいくらいだし、そのくらいになっていないと公共性の観点からは不十分なのかもしれない。
そのような背景からかギリギリのフライトを体験できることはあまりないように思う。

そもそも気候条件が悪く、目的地に到着できない可能性のある条件付き飛行となったとしても、大きな機体ではその条件を実感できることは少ない。
それは、悪いとされる気候条件の重要な要素である風の強さを実感しにくいということなのだろう。
というわけで、プロペラ機などの小型機である必要がある。

不幸と言うべきか、幸運と言うべきか、島に渡るフライトでその体験をすることができた。
当然、プロペラ機でたぶん有視界飛行の路線だ。
もちろん他へ行くジェット機は何の問題もなく飛んでいたし、このフライトも到着地の天候が良ければ飛べたのだと思う。

一時間半前くらいに鹿児島空港に到着し、その便を待っていた。
到着した時点では、問題なく飛ぶようで、条件付きですらなかったけれど、45分前くらいに条件付き飛行となり15分前には欠航が決まった。
というわけで次の最終便に振り替えて、16:55の便まで二時間半ほど待つこととなった。
外は大雨で、あまり希望はない状況だけれど、一応待つといったところだった。

時間が近づき、再度、出発ゲートへ。
16:40に未だ天候調査中とのことで、17時の時点で出発の可否が伝えられるとの案内があった。
最初、空模様はほぼ絶望的、しかしこの20分間でみるみるうちに天候が回復し、雨も止み、少しだけ雲の切れ間が見えてきた。
17時になり、17:20にひとまず出発することが伝えられた。
もちろん条件付き飛行だけれど、海外だったら拍手があっただろう。

離陸して雲の切れ間から見える桜島や街の明かりを眺めながら、しばらくは思ったより安定した飛行だった。
しかし、降下を開始してから揺れが激しくなり、一瞬体がほんの少し浮いたかと思うくらい落ちるような動きもありつつ、厚い雲の下に出ると、薄暗くあたりが見えにくい中に空港の滑走路の明かりが見えてきた。
これは隣の島の空港だけれど、視界の中で唯一浮かび上がっているその明かりは美しく安堵感を与えてくれるようだった。

昔の郵便飛行のパイロットはこんな味わいを知っていたのかと思った。
サンテグジュペリの作品を読んだ時に、なぜそこまで命をかけて飛ぶのかといった疑問があったけれど、風と共に、また風の間をかいくぐるように飛んで行く感覚はなにものにも変え難いものだったのだろう。

少しだけ深くそれが実感できたように思う。
確かに風とともに散っていくのは不幸ではないのかもしれない。

2012.12.16 17:13 谷孝祐