最近は経営学を交えての無意識の議論を行っております。経営学といいますと、非常に客観性を重要視する学問でありまして、こう考えますと無意識の議論など対象外となるのが当たり前であるかと思われます。しかしながら、前稿におけるブレイクスルーの議論をとってみるだけでも、無意識とは切っても切れない縁があることをご理解いただけたかと思います。
そして何より経営学において重要なのは、やはり他者についての研究が主流であり、例えば、グレイナーの成長の5段階は成功企業の事例をサンプルとして収集し、その結果を取りまとめたものであり、その意味で、成功企業における組織内部における成長と発展、該当企業の経営者の意思決定の仕組みの研究という、主体そのものの成長と発展を述べたものではないことに着目してゆかなければなりません。アンソフの経営戦略論も同じことであり、ポーターの経営戦略論もこれに準じます。
ここからは私の経営学における専門分野であります経営戦略論に視点を定めて話を進めます。
経営戦略とは、意思決定であると翻訳され、さらに、ここに合理的意思決定という考え方があります。この合理的意思決定は本当に合理的に意思決定が行われるのか?という疑問について、このブログの読者ならすぐに頭に出てくるものと信じております。この議論についてはサイモンという学者が既に合理的意思決定は無理ではなかろうかという仮説を出しております。私もそう思っておりまして、やはり、人間の心に無意識がある限り、完全に合理的な判断を下すことは不可能であると言わざるをえません。むしろ、不合理の中から合理性を見出すとするのが正しく、意思決定する際の経営戦略論における不合理の発見が非常に重要になるかと思われます。
経営戦略論の父とよばれるアンソフによる企業の成長マトリクスを参考に話を進めますと、市場浸透から新製品開発へと移行するときの意思決定とは、該当企業を観察する側からすると、単純に既存市場において新しい製品を供給することで企業の成長を促進しようとする動きとなります。この場合、観察者である研究者は何も怖いことはないので、「味噌メーカーが新しい味噌を開発して新しい段階へ進んだ!」というノエマ的他者論を導き出すものと思われます。しかし、該当する味噌メーカーは市場と直結しておりますので、この成長戦略はノエシス的他者論で意思決定を下していると考えられ、事後的な解答だけを見ると両者の答えは同じでありながら、心理状態は非常に異なることをご理解いただけるかと思われます。
このような違いがある故、経営の現場と学問とはこれまで仲良くすることが困難であったのですが、ここを積極的に、それもプラスの方向へ考えてみますと、経営学者のこれまでの実績の多くはノエマ的他者論であるとすると、企業経営者の意思決定はノエシス的他者論であると判断することができ、ノエマ的他者論は抽象的であり、ノエシス的他者論は具体的であると仮定すると、経営学における成功企業の事例研究の研究対象となった企業にノエシス的他者論を組み込んでゆくことにより、新しい何かが見えてくるのではなかろうかと思われます。
この段階にきて初めて経営学に無意識を組み込んでゆくことが可能となるかと思われます。では無意識を組み込むことにより、どのようなことになるかというと、なぜ経営者は市場浸透から製品開発へと戦略を進めたのかなどの具体的なフローを見てゆくことができます。経営戦略における研究結果として、成功企業の要因が第三の道を選択したものであることが顕著であるならば、やはり、成功企業の企業経営者は合理的意思決定を下しているというより、トリックスター元型を活用し、非常に無意識を活用したクリエイティブな意思決定を行っているといえ、経営戦略論における無意識の活用法を導いていくことができるのではないかと思われます。
これを応用すると、各種の芸術家とプロダクションとの関係をこれまで以上に良好にしてゆき、無意識同士の対決が進むことにより、アーティストと共にプロダクションも成長と発展を遂げてゆくことができるのではなかろうかと思っております。
続きは次稿へ譲ることにします。ご高覧、ありがとうございました。